タイトルは最小の企画書
2023.11.13 08:00
映画には予告編がある。本編の完成度と同じくらい、いやそれ以上に予告編の良しあしで集客は変わる。ツアーも同じ。私たちの場合、予告編にあたるのは告知ページだ。ツアータイトルや告知文、写真を配置する。特に時間をかけて用意するのがタイトル。情報洪水の現代ではタイトルで見込み客を引きつける必要がある。クリックしてもらわなければ、どれだけ力を入れた告知文も読まれることはないのだ。
ちまたのまち歩きの多くはまず歩くルートを決めて、その後にタイトルを考える。そしてガイドを募集する。しかし、まいまい京都は逆。まず面白い人を探す。次がタイトル。なぜかといえば、30~40字×2行という限られた文字数に盛り込む要素を絞り込むことで方向性が決まるからだ。いわばタイトルは最小の企画書である。面白いタイトルは面白いツアーをつくる。
タイトルづくりで心がけていることがある。一番の魅力を一言に凝縮することだ。ちまたのまち歩きツアーや旅行商品を見ると、これが抜け落ちていることが多い。例えば「金閣寺日帰りバスツアー」という商品名は旅程や移動手段の説明にとどまっている。
私たちなら例えば「【金閣寺】“日本国王”の宮殿、梅林崖長と金閣寺の謎を解き明かせ」と銘打つ。このツアーに参加することで、これまで知らなかった新しい見方が手に入ることを明示する。一番の売りがガイドさんなら「御用庭師と行く」や「仏師のお仕事拝見」などとガイドさんの存在を前面に打ち出す。こうして、コースの魅力を一言にまとめていく過程で内容の輪郭がはっきり決まる。
タイトルを考える過程で内容が変わることもある。担当者からこのようなタイトルが提案された。「貸切クルーズでキャプテンとお花見クルーズ!水面に映る桜ノ宮、貸切でしか行けない大阪城…ぜいたくな船旅を楽しもう!」というものだ。一番の魅力は貸切クルーズと書かれている。ただ担当者の説明を聞いてみると、もっと別の要素が売りになると思えてきた。
最終決定したタイトルは「【ミステリー桜クルーズ】キャプテンといく、桜の絶景プライベートクルーズ~水都を知り尽くす男が案内!船でしか辿り着けない桜景色へ~」。少人数の参加者で船を貸し切るのと同時に、水都を知り尽くすキャプテンがその日一番桜がきれいな場所へ自由に連れていってくれることがアピールポイントになると判断した。それを「ミステリークルーズ」と名付けた。そのため、当初案と変わって船での行き先も決めないことにした。結果、キャンセル待ちが続出する人気となった。
面白いタイトルを生み出すことは企画自体を面白くすること。最もミニマムな企画書であるタイトルがコースの内容も集客も決めるのだ。
以倉敬之●まいまい京都代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社、イベント企画会社経営を経て、11年にまいまい京都を創業。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演した。共著に『あたらしい「路上」のつくり方』。京都モダン建築祭実行委員。
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