EUの新たな民泊規制法

2024.04.08 00:00

 欧州連合(EU)は民泊事業=短期宿泊レンタルサービス(STR)の規制に関する議論を続けてきたが、2月に欧州議会は新しい規制法を採択した。

 新法の項目は次の3点である。1つ目はEU加盟国でオンライン民泊事業者が掲載するホスト情報のシンプルな登録プロセスによる可視化、2つ目に民泊事業者に対するホスト情報の確認義務と、当局による登録停止や掲載の削除、罰金による利用者のセキュリティー強化、3つ目に民泊事業者が貸出日数や宿泊者数、住所など、ホストの活動に関するデータを毎月自動的にオンラインで報告する義務である。これらにより、当局はホスト登録プロセスの順守状況を監視し、適切な政策を実施できるようになる。

 議決を受け、ユーロニュースは「STRに関する欧州都市連合」代表であるフェムケ・ハルセマ・アムステルダム市長の寄稿を掲載した。都市連合はアムステルダムやバルセロナ、ベルリン、パリ、フィレンツェなど18都市からなる組織で、これまで民泊の透明性を求める活動を行ってきた。

 ハルセマ氏は今回の規制法は特に住宅不足や観光関連の課題に直面する都市にとって極めて重要で、データ共有や違法案件の強制削除などの新しい義務は既存の規制を強化するのに役立つと指摘。都市連合が18年から行ってきた一連の活動の終わりを告げるものであると歓迎の意を表した。

 欧州議会によれば、22年にEU域内で4つの民泊大手プラットフォーム(エアビーアンドビー、ブッキング・ドットコム、エクスペディア・グループ、トリップアドバイザー)を通じて予約された宿泊数は計5億4700万泊で、1日平均約150万泊。同年に民泊利用者数が最も多かったのはパリ(1350万人)で、次いでバルセロナとリスボンが850万人以上、ローマが800万人以上だった。また23年8月の月間予約宿泊数は1億2470万泊と、4年前の同月比約1.3倍増となった。

 民泊はEU域内観光客の宿泊全体の約4分の1を占めるという。ホスト、観光客、観光地に利益をもたらす一方で、住宅価格の上昇や定住者の移動、オーバーツーリズム、不公正な競争といった問題も生じてきた。しかし民泊の登録制度はEU加盟国間でもばらつきがあり統一的な措置が取れなかった。今回の法規制で民泊会社は自治体とデータを共有することが義務付けられ、自治体が民泊の規則をスムーズに執行できるようになり、住民は住宅を利用しやすくなることが期待される。

 今後は欧州理事会で採択されたのち、EU諸国は24カ月以内に新法を実施することになる。EUによる法規制は、個人情報保護のための一般データ保護規則(GDPR)をはじめ世界に大きな影響を与える。現在も自動車CO2排出規制や昨年末に暫定合意に達したAI法案など、重要な法案が導入に向けて議論される。今回の民泊規制法は持続可能な観光の実現に向けての新たな展開として注目される。「都市住民と観光客双方に利益をもたらす」(ハルセマ氏)ことを期待したい。

小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。

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