企画は一見さん目線で

2023.10.16 08:00

 ツアーに参加してもらうためには、その魅力を最大限に引き出し、他の人にも「面白そう」と思ってもらわなければならない。まさに愛情の伝播の事業化である。

 新コースは週に1度の企画会議で検討される。といっても、企画書やプレゼンテーションはない。発案者が企画のネタをスプレッドシートに1行書いておく。私や他のメンバーから「面白そう」の一言が出れば企画は承認だ。

 発案者はつい、自分の口でその魅力を語りがちだ。しかし参加者さんはその声をじっくり聞いてツアーに申し込むわけではない。まずタイトルを見て、気になったコースのみ告知ページが開かれる。申し込むかどうかのジャッジはその後だ。本屋の棚にずらりと並ぶ書籍から、何を手に取るかを決めるのと同じだ。ツアーが集客するかどうかは1行のタイトル案でだいたい分かる。

 そして、企画で大事なことが一見さんの視点だろう。つまり、何も知らない人が見て面白そうと思えるかどうかという客観性である。まち歩きツアーを探している人なんて、そうはいない。需要は常に潜在的なのである。だからこそ、思いがけず目にした一見さんに「面白そう」と思ってもらわなければ何も始まらない。企画会議はいわば未来の参加者さんに成り代わり、一見さんとしてフィードバックする機会なのだ。

 もちろん、他にもクリアすべき点はある。現在は以下のような視点で複合的にコース実施を判断している。

 ①ガイドは誰か:専門性だけでなく、やはりガイドが面白いかどうかが最も重要。②タイトル案:知的な喜びや特別感があるか。コンセプトがはっきりしていれば、自ずと具体的なタイトルになる。③収支試算:参加費の見込み、経費の有無、訪問先のキャパシティーなどを鑑みた定員の設定から算出する。④継続性:長く継続できるツアーなのか。⑤企画・開催コスト:企画にかかる労力や、開催当日のスタッフの負担が大きすぎないか。

 中でも長年ツアーを企画してきて大切だと思うのが④の継続性だ。どれだけ面白くても、一度しか開催できない企画は多くの人に届けることができない。事業は刹那的な金儲けではない。生活者のなんらかの課題を解決して、人生を豊かにしていくというサービスである。公共的な役割がある。事業者にはその事業を継続、発展させていくという責任があるのだ。

 イベントという究極の“フロー”型事業だからこそ、面白いツアーを“ストック”していく発想が欠かせない。継続的に開催できる、多彩な面白いツアーを積み上げていってこそ、まち歩きツアーを街を楽しむ最適な手法として普及させていくことができるのだ。

以倉敬之●まいまい京都代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社、イベント企画会社経営を経て、11年にまいまい京都を創業。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演した。共著に『あたらしい「路上」のつくり方』。京都モダン建築祭実行委員。

関連キーワード