期待高めるリード文

2023.12.11 08:00

 ツアーのタイトルが決まったら、告知ページに掲載するリード文をつくる。リード文はまち歩き当日といういわば「本編」へ誘うために極めて重要だ。参加者の期待感を最大限まで高め、参加に踏み切ってもらうのが目的である。ちまたのまち歩きツアーの告知文を見ると、もったいないと感じることが多い。コースの説明文になっているからだ。「京都駅を出発して、三十三間堂を参拝。次に……」と旅程を素っ気なくまとめるだけでは参加者はワクワクしない。

 まいまい京都では、そのコースを歩くことでどんな体験が得られるか、どんな発見がありそうかを明示する。例えば誰もが知る京都駅を歩くツアーを紹介してみよう。歩くルートを説明すれば「JR京都駅中央改札前→烏丸口バスターミナル→」と無味乾燥になってしまうが、私たちはリード文をこのように書いた。

 書き出しは「巨匠建築家・原広司の最高傑作として知られる日本最大級の駅ビル・京都駅へ」。知っていたはずの京都駅の前提を捉え直し、興味を引く。そこに「でも、実は京都が誇る中央駅はそこらじゅう謎だらけ…って、ご存じでしょうか?」と続ける。問いかける形でテーマを明示する。さらに「日本一長いホームはどうできた?」「京都駅は巨大な“石の博物館”?」「2代目移転の高低差!?」と具体的に「謎」を畳みかける。どのようにそのコースを楽しめるか、見方を提示することで、たった300字で京都駅に行ってみたいと思わせることができる。

 リード文に盛り込む内容は企画会議を経て決まったタイトルを基にする。タイトルは最小の企画書。タイトルにはツアーのエッセンスがぎゅっと詰まっている。リード文ではタイトルに出てくるキーワードを1つずつ拾って肉付けしていく。

 リード文で参加者の期待を高めるコツはいくつもあるが2つ紹介しよう。1つは冒頭からクライマックスを迎えること。現代人はシビアだ。1秒でも早く注意を引き付けなければ最後まで読んでもらえない。映画の予告編も本編のストーリーをバラバラにして魅力的なシーンをつないでいる。あの要領だ。歩く順番どおりに情報を並べるのでなく、参加者が気になる情報を上から並べる。

 もう1つはうんちくや由緒など抽象的な説明に終止せず、情景が目に浮かぶようにすること。「京都駅は1997年に完成し、1日の平均乗降人員は約50万人」と歴史やデータを伝えられても、その分野に詳しくない人にはピンとこない。うんちくではなく、「世界に類を見ない超巨大なコンコース。そこに浮かぶ不思議な舞台。8つの『広場』と空中経路」など、何が見えるのか、参加者が味わえる情景を描く。

 高い期待を持った参加者が集まることはツアーの満足度に決定的に大きな影響を及ぼす。言葉選び1つで集客や満足度が変わるのだ。

以倉敬之●まいまい京都代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社、イベント企画会社経営を経て、11年にまいまい京都を創業。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演した。共著に『あたらしい「路上」のつくり方』。京都モダン建築祭実行委員。

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