ラグジュアリートラベルへの道

2024.03.04 08:00

 小規模事業者である当社は世界各地のパートナーと連携して仕事をしている。世界の旅をスマートフォンで予約できるようになった現在、「付加価値のある旅」を実現するためには、人的ネットワークの存在がますます重要になっている。特にリアルな世界の手配には信用と実績が取引先選択のベースとなるからだ。

 世界の観光業界で旅行消費単価の高い富裕層旅行が注目されている。このようなラグジュアリートラベルを標榜する組織として、世界にいくつかのコンソーシアム(共同事業体)がある。代表的な団体としては米国を中心に生まれたヴァーチュオーソと欧州を拠点に発展したセランデピィアンズがある。どちらも富裕層顧客を対象とした中小事業者の共同事業体であり、会員制組織である。

 当社は昨年、セランデピィアンズの「トラベルデザイナー」として登録承認を得た。信用調査と実績考査のために国内外のホテルやDMOからの推薦状を提出したうえでの入会審査があり、会員として認証されると世界中のメンバーとつながることができる。セキュリティーが確保された閉鎖的ネットワークを利用して、顔とプロフィールを開示した会員同士の商談ができるようになった。会員登録されているホテルの支配人やアフリカのサファリロッジのオーナーなど、世界中のメンバーと直接コミュニケーションをとることでビジネスの幅を広げることができる。

 ラグジュアリートラベルに特化した商談会としてはILTM(インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット)が知られる。ロンドンに本社を置くリードエグジビションが主催し、カンヌ、アフリカ、中南米、シンガポール、北米、上海、ドバイで開催され、バイヤーとセラーが地域のラグジュアリートラベルの最新動向を共有する場となっている。

 参加は招待制で事前アポイント制の商談、セミナー、ネットワーキングパーティーを通じて、招請されたバイヤーと交流する場を提供している。中でもカンヌは数千人が3フロアにまたがる会場に集まる最大規模の商談会で、日本からも日本政府観光局(JNTO)をはじめ自治体、宿、DMOなど多くの事業者が出展・参加している。

 当社も数年前から参加しているが、ラグジュアリートラベルの門をくぐってみると数人のキーパーソンによってさまざまな人的ネットワークができていることを知った。02年にILTMを組織したセルジュ・ダイブ氏はILTM事業を英国の会社に売却した後、PURE Life Experiencesや、This is Beyond、We are Africaなど、目的やテーマ別に細分化された新しい組織を運営し、限定した参加者を招待制にして世界の人的ネットワークづくりを拡大させている。

 ラグジュアリートラベルへの道は、お互いのお客さまにとって、より近い価値観と目的を持ったパートナーとの協業を得ることができるかどうかが成功の要因となる。小規模事業者はお互いが専門領域を磨き、プロフェッショナル同士として協業することで企業価値を高めていけると考えている。

 上述のセランデピィアンズのネットワークで、昨年イタリアのホテル手配を行った。ポルトフィーノにあるホテルスプレンディドと、ベネチアにあるチプリアーニだ。いずれもべルモンドホテルグループなので両ホテルでの顧客情報の共有によりサービス連携ができた。さらに私自身がホテルの顧客担当者や責任者と直接メールでやりとりすることで安心感を得られた。このような顔の見える人的ネットワークが、ラグジュアリートラベルの要点になると実感した体験だった。

柴崎聡●グローバルユースビューロー代表取締役社長。海外のネットワークから企画が実現した世界初の「ウィーン・フィルクルーズ」はクルーズ・オブ・ザ・イヤー受賞。シェフや音楽家が同行する旅などオリジナル企画を多数実施。カルチャー&ホスピタリティーを念頭に企画から添乗まで現場で陣頭指揮を執る。

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