ラーケーション 需要平準化と旅育の旗手となるか

2023.10.23 00:00

(C)iStock.com/JumlongCh

学び(ラーニング)と休暇(バケーション)を組み合わせた「ラーケーション」の導入が愛知県と大分県別府市で始まった。普及すれば、働き方・休み方改革の促進や、体験を通じた子供の成長を促す旅育の機会拡大が期待される。旅行需要の分散化も狙った制度は観光産業の大きなチャンスとなりそうだ。

 愛知県と別府市は9月から公立学校を対象に、保護者との校外学習を目的に児童・生徒が平日に学校を休める新制度をスタートさせた。いわゆるラーケーションの取り組みだ。ラーケーションは、休日や休暇旅行といったバケーションの中に、学校など日常の場では得られない学びの要素を取り入れることを意味する。一方で、親の働き方改革や休み方改革を通じたワーク・ライフ・バランスの推進という側面も併せ持つ。愛知県は子供の学びと保護者の休みの組み合わせと読み解き、「ラーケーションの日」の名称で取り組みを開始した。別府市は旅と学習(study)を組みわせた「たびスタ」休暇として普及を目指している。

 愛知県のラーケーションの日は休み方改革プロジェクトの一環で、家族が一緒に休めるようにする「県民の日学校ホリデー」とともに新制度として創設した。保護者等と一緒に探求の学びや体験を通じた学びを行うことを条件とし、前日までに保護者が申請すれば学校に登校しなくても欠席扱いにならず、病欠や忌引きなどと同様の扱いとなる。今年度は2学期以降の実施となったため2日まで取得でき、24年度からは年3日まで取得できる。

 愛知県によれば、県内には土曜の就業者が全体の約45%、日曜の就業者が約30%おり、休みの日に子供と一緒に過ごすことが難しい家庭が少なくない。そうした家庭でも旅行など家族一緒の時間を体験できるようにするのが狙いの1つだ。

 愛知県の目線は保護者でもある教職員にも向けられている。新制度のスタートに際して大村秀章知事は、保護者・児童生徒だけでなく教職員に宛てたメッセージを発表している。「ラーケーションの日を契機として休暇をお取りいただき、家族とともに豊かな時間を過ごしていただきたい」としたうえで、「今後も休み方改革を推進し、教職員が休暇を取りやすい環境づくりを進めていく」と配慮を見せた。

 実際にラーケーションの日創設に当たり、県は校務支援員を配置する仕組みも用意した。制度を利用して休む児童・生徒に授業内容などのプリントを配布するなど、学校や教職員の負担が増大することを踏まえ、県が各学校に配置する校務支援員を確保する。当面はラーケーションの日に参加する県下53市町のうち、18市町村を対象に配置するモデル事業を実施する。将来的には全市町村の対象学校に配置することも想定している。

 別府市の「たびスタ」休暇は、働き方改革や休み方改革をより意識した取り組みといえる。というのも、別府市では主産業の宿泊業・飲食サービス業の従事者が10.6%に達しており、全国平均(5.6%)の2倍近い。祝休日に働く者が多く、休みの日に子供と一緒に過ごせないケースも多い。このため市では、旅育の推進と同時に、平日や閑散期の観光需要のシフトによる地域経済の活性化を目指すため、別府市発の新しい学び方・休み方としてこの制度をスタートさせた。

 たびスタ休暇は年度内に3日まで取得可能だが、取得5日前までに届け出ることが必要で、対象となるのは市立の小学校と中学校(高校は市立がないため対象外)の計22校。条件は保護者等と一緒に旅行することだが、旅行先は市外に限定される。その理由について市は「市外への旅行は、その土地の文化や習慣、食べ物などから異文化への理解が深まるとともに新しい知識を得ることができる。その経験は学校教育だけでは得られない特別な体験であり、社会的な教育効果もあることから、市外旅行=教育と捉えられる」と説明する。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年10月23日号で】

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