『葬送のフリーレン』 異世界探検は現代人の憧れか

2024.04.22 00:00

山田鐘人原作・アベツカサ作画/小学館刊/594円/コミック既刊13巻  © 山田鐘人・アベツカサ/小学館

 今季話題のアニメといえば『葬送のフリーレン』、そして以前取り上げた『ダンジョン飯』(九井諒子著)。後者は迷宮(ダンジョン)で遭遇した魔物を食糧としつつ地下深くへと旅する一行の物語で、漫画は昨年完結。冒険物語の形を取りつつ「生きることは命を食べること」という深いテーマを最後まで追求した結末にはうならされた。

 そして『葬送のフリーレン』は現在も連載が続く漫画で、アニメは今年3月で終了、たぶん続編もあるはず。

 主人公は、かつて魔王を討伐し世界を救ったパーティ(グループ)のメンバー・魔法使いのフリーレン。寿命1000年のエルフ族でクールな性格だが、旅の50年後、年老いた勇者ヒンメルの死を見送った彼女は涙を流し、ヒンメルや人間をもっと知っておけばよかった、もっと知りたいと新たな旅に出る。多くの出会いや別れ、そして新たな仲間たちの成長を見守りつつ、フリーレンはかつての旅の意味、理解できなかった人の心の揺らめきをゆっくりと見つめ直していくのだった。

 なぜこんなファンタジー漫画を取り上げたかというと、近頃は以前ほど紀行漫画を見かけなくなった一方、こういう異世界の旅モノが増えてきたなと思っておりまして。異世界といっても世界観はほぼ同じで、エルフ、ドワーフなど古くは「指輪物語」、現代でいえばゲームの世界が舞台だ。

 こういった世界に一般人が転生する異世界転生モノと呼ばれるジャンルが存在するほど一般的になったファンタジー世界。イマドキの人々にとっては、写真で見て行った気になっている南米を探検するよりは異世界を探検するほうが憧れなのかな、とも思ったりする。

 ともあれ、どちらも傑作、一読をおすすめです!

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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