LRTとまちづくり 注目集める宇都宮の成否

2023.10.16 00:00

写真提供/宇都宮市

8月に開業した宇都宮のLRTに注目が集まっている。地方都市再生策の1つであるコンパクトシティ構想を支える公共交通の軸として、また自動車依存社会からの脱却策として、LRTが期待されるからだ。欧米を中心に世界各国で導入されるが、日本でも広がっていくことになるのだろうか。

 LRTとはLight Rail Transitの略で、次世代型路面電車などと訳されることが多い。ただし昔ながらの路面電車と違い、LRTは乗降がしやすい低床式車両を使用することに加え、快適性や低騒音性、省エネ性にも配慮した最新型車両で運行され、人と環境により優しい軌道系交通システムとなっているのが特徴だ。

 そのLRTとして8月26日に開業したのが芳賀・宇都宮LRTだ。全線の軌道を新設してLRTを開業するのは全国初の試み。路面電車の新規開業という意味でも日本では75年ぶりという画期的な出来事だ。運行会社である宇都宮ライトレールによれば、開業後1カ月の利用者数は予想以上で、休日は1万4000人~2万人が利用しており、事前予想の4400人の4倍以上。平日も予想通り1万2000人~1万3000人が利用している。

 軌道が新設されたとあって車のドライバーが慣れていないこともあり、9月1日に右折乗用車との軽い接触事故が発生するなど9月17日までに3件のトラブルが報告されるが、いずれも軽微な接触事故でまずは無難なスタートといえそうだ。

 かつての日本では全国の街々で路面電車が走り回っていた。日本交通協会によれば、最盛期の1930年代初めには全国約120都市で90社近い事業者が路面電車を運行していた。しかし60年代以降の急速なモータリゼーションの進展により、大都市では地下鉄に公共交通の主役の座を奪われ、地方都市でも交通渋滞の原因として嫌われた路面電車は姿を消していった。その結果、2023年8月時点で路面電車(LRTを含む)を営業しているのは23都市23事業者に限られる。

 LRTが再び注目されるようになった背景として、07年に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(地域公共交通活性化・再生法)が挙げられる。同法の登場により、地方の公共交通を再整備するにあたって市町村がイニシアチブを取ることが可能になり、まちづくりと連携した公共交通事業を計画・実現しやすくなった。19年には同法が改正され、LRTの上下分離制度や自治体の車両購入支援など支援策も充実した。

 芳賀・宇都宮LRTも上下分離方式という事業形態を採用し、レールの整備や車両の導入は自治体が担当し、設備の維持管理や実際の運行業務は宇都宮市・芳賀町・民間企業が出資して設立した宇都宮ライトレールが担当する形を取る。

宇都宮が掲げる構想

 芳賀・宇都宮LRTはJR宇都宮駅東口を起点に、芳賀町の工業団地までの14.6㎞を48分で結ぶ路線で、短期的には宇都宮から隣接エリアの芳賀工業団地へ向かう自動車通勤者の取り込みを目指しており、朝夕の渋滞緩和が期待される。しかし渋滞緩和はあくまでLRT導入の目的の1つ。より期待されるのは宇都宮を再生するためのネットワーク型コンパクトシティ構想における、公共交通の軸として機能することだ。

 宇都宮は人口減少と少子高齢化という全国の地方都市に共通する悩みを抱えており、車の普及とともに市街地が郊外に拡散した結果、需要も拡散してしまいバス路線の多くは赤字に陥る結果となった。人口の拡散により街の密度が低下すれば暮らしの効率が悪くなり、公共サービスの人口当たりのコストも跳ね上がってしまう問題がある。同時に市街地の郊外拡散は市中心部の空洞化も引き起こす結果を招いている。こうした課題の解決を芳賀・宇都宮LRTは託されている。

 宇都宮市と芳賀町では高齢者や、マイカーを運転しない者も移動できる公共交通手段としてLRTに着目。バスより輸送力が高く、定時制と速達性に優れ、建設費は地下鉄の10分の1、モノレールの3分の1ともいわれ初期費用を抑えられる点で有利なLRTに白羽の矢が立てられた。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年10月16日号で】

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