観光圏とDMO 揺れる地域の選択

2023.09.25 00:00

(C)iStock.com/asbe

滞在型観光の広域エリアを整備・促進するための観光圏制度と、観光地域づくりの司令塔役を担うDMO。互いに連携して成果を上げることが期待されるが、必ずしもそうなっていないのが現実だ。両者の関係性の整理や見直しを求める声も上がっている。

 全国に13ある観光圏整備実施計画認定地域(観光圏)のなかで、前回の認定更新から5年間が経過し最終年度を迎え、次の更新を来年度に控える地域は、ニセコ観光圏、浜名湖観光圏、海の京都観光圏、豊の国千年ロマン観光圏の4つだ。このうち浜名湖観光圏は更新しない方針を決めた。観光圏事業を協議する浜名湖観光圏整備推進協議会が8月の23年度総会でこの方針を了承した。

 浜名湖エリアが観光圏制度からの離脱を決めた主な理由として挙げるのは、観光圏を維持することのメリットの減少と離脱のデメリットが少ないことだ。加えて、浜名湖観光圏の事業を担ってきたDMO「浜松・浜名湖ツーリズムビューロー」の活動の中で、DMOとしての取り組みと観光圏としての取り組みが重なる部分が多いため、事業をDMOに集約することにした。

 浜松・浜名湖ツーリズムビューローは「観光圏もDMOも同じ団体が同じ目的で動いているにもかかわらず、それぞれを別の事業として行うことにより手続き的な面で二度手間があり、業務が煩雑化している」と事情を説明する。また観光圏を離脱しても大きな支障を来さないとも見ている。来年度以降は観光圏として国の認定を受けているとうたえなくなるものの、浜名湖観光圏の名称そのものは継続使用が可能で、ブランディングを損なう懸念は小さいという。

観光庁も認める改善の必要性

 更新時期を迎える浜名湖以外の3つの観光圏からは離脱の意向はうかがえない。豊の国千年ロマン観光圏の事業を担うDMO「豊の国千年ロマン観光圏」は認定更新を目指す考えで、次の5カ年計画を策定中だ。「この5年間で状況が変わっているし、観光立国推進基本計画も改定された。変化に合わせて観光圏整備実施計画を見直し、地域が一丸となって同じ方向を目指したい」という。海の京都観光圏も認定更新を前提に準備を進めている。「コロナ禍を経て変化した観光を取り巻く環境を踏まえ、インバウンド戦略も考慮しつつ、観光圏としての全体戦略を総合的に検討している段階」だ。

 観光圏における事業は、実施主体として観光地域づくりプラットフォームが担うこととされている。13の観光圏を見ると、観光地域づくりプラットフォームはすべてDMOがその役割を担っており、観光圏とDMOの事業の重複はいずれにも存在すると考えるのが自然だ。

 現状について観光庁の髙橋一郎長官は8月の定例会見で、「観光圏制度はいわゆる自然・歴史・文化など密接な関係にあるエリアにおいて、2泊3日以上の滞在に力を入れた観光地域づくりの制度。一方、DMOはエリアの範囲や滞在期間にかかわらず、魅力的な地域づくりの司令塔になりうる組織づくりを目的としている。それぞれの目的を果たすための制度であり、地域の関係者はそれぞれの目的達成のために活用いただいていると思っている」と制度の意図と違いを説明する。ただ、そのうえで、「書類の記載内容が重複するなど手続きの改善を求める声が届いている。より負担の少ない形でそれぞれの制度を活用していただけるような運用改善は図っていきたい」と述べ、手続き面での改善の必要性に言及した。

減少した特例のメリット

 観光圏を維持するメリットが以前より小さくなっているとする浜名湖観光圏の考えは否定できるものではない。08年に施行された観光圏整備法に基づき認定が開始された当初は、例えば圏内の特例として旅行業法の規制が緩和されるメリットがあった。しかし13年の改正旅行業法の施行により、旅行業の種別に地域限定旅行業が登場したことで特例のうまみは消えた。観光圏に認定されると国からの交付金を得られた支援制度がなくなったことも大きい。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年9月25日号で】

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