稼ぐ力はいずこ 主要国との格差を縮めるために

2023.08.21 00:00

(C)iStock.com/Deagreez

日本の観光産業の稼ぐ力は、欧米の主要国に比べ大きく見劣りする――。そんな内容が観光白書に明記された。特に就労者の報酬の低さが目を引く。改善に向けて客単価の引き上げが必要とされるが、物価上昇率を上回る値上げや賃金改善は容易ではない。稼ぐ力について考える。

 観光白書によると、稼ぐ力の源泉となる、観光サービスの提供によって生み出される付加価値額(観光GDP)は、日本は14年以降増加傾向にある。19年には11.2兆円に達し、国連世界観光機関(UNWTO)の国際基準に基づいて観光GDPを算出している国の中では、米国、ドイツ、イタリアに次ぐ規模となった。しかし、国のGDP全体に占める観光GDPの割合は2.0%にとどまり、スペイン(7.3%)を筆頭とする欧米7カ国(米・加・英・独・仏・伊・西)の平均(4.5%)とは大きな隔たりがある。

 また白書では、観光GDPをベースに付加価値率(生産額に対する付加価値額の比率)と就業者1人当たりの付加価値額を割り出し、これを観光の稼ぐ力を測る2つの指標として取り上げている。1つ目の付加価値率は、日本の全産業の53.0%に対し、観光とその他関連産業は49.0%と相対的に低い水準だ。また欧米5カ国と比較した場合、全産業は5カ国平均の51.3%を上回るのに対し、観光産業は5カ国の同平均(52.3%)より低い。

 目を引くのは就業者1人当たりの付加価値額だ。日本は491万円で、日本の全産業平均(806万円)の約6割しかない。他国と比べても米国(1122万円)、スペイン(898万円)、イタリア(678万円)に大きく後れを取り、欧米5カ国平均(766万円)との比較でも275万円もの大差がある。

 日本の観光産業の稼ぐ力が見劣りすることについて、観光白書は「今後は官民一体で観光の付加価値を高め、観光GDP比率の向上に取り組むことが重要」としている。そのためには客単価と客数の掛け算で決まる売上高を増加させる必要があるとも指摘。単価の向上策について、商品・サービスの高付加価値化やブランド力の強化の重要性を挙げ、客数増についてはDXによる可視化や顧客管理の高度化を通じた新規顧客の拡大、リピート率の向上、稼働率の向上が重要とする。

高まる賃上げムード

 観光庁はこうした方向性にのっとり、稼ぐ力を高めるための一施策として、「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」を実施している。宿泊施設の高付加価値化改修、廃屋の撤去、観光施設の改修、面的DXなどを支援する考えで、対象事業の採択に当たり、「物価上昇の状況も勘案し、従業員の賃金の増加効果が高い事業となっていること」を評価基準の1つとした。これは、賃金向上が生産性向上や人手不足の解消には欠かせず、観光の稼ぐ力を高めるための基本的要件でもあると認識されていることを示している。

 観光産業における賃金の引き上げの必要性は、人手不足の深刻化もあって多くの企業が認め、動き始めている。低賃金と人手不足がとりわけ指摘されているホテル業界では、パレスホテルが4月に大卒新入社員の初任給を14%増の23万5400円に引き上げた。星野リゾートは24年度入社から初任給を引き上げ、大卒の場合、11.7%(約2万5000円)増の約24万円とする。鉄道や航空会社でも目立つのが初任給の見直しで、小田急電鉄は4月から大卒総合職で10%増の23万6600円としたほか、日本航空は全職種で1万1000円引き上げ、大卒で22万8000円に。全日空は大卒で最大2万円増の23万8557円とする賃上げに踏み切った。

 全従業員の基本給を一斉に引き上げるベースアップ(ベア)も散見される。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年8月21・28日号で】

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