コロナ禍の総括 ツーリズムは何を学んだのか

2023.06.26 00:00

(C)iStock.com/Lepro

国内の地域間だけでなく、多くの国と日本との間に自由な往来が戻ってきた。しかし、コロナ禍の前と後では、旅行や観光に関して変わった部分が少なくない。この変化に対応し、これからのツーリズムのヒントを探すためには、コロナ禍の総括が避けて通れない。

 日本政府は5月8日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザ並みの5類に引き下げ、世界保健機関(WHO)は「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を解除した。これにより、各国の水際措置の完全撤廃が進み、コロナ禍前の自由な往来が復活。3年ぶりにかつての日常が戻ってきた。とはいえ、コロナ禍を境に社会全体の環境が変化したのに伴い、ツーリズムの世界における日常もかつてのそれとは似て非なるものとなり、「ニューノーマル」がアフターコロナを象徴するキーワードとなっている。

 ツーリズム関係者の中で、コロナ禍前の日常をそのまま取り戻せる、あるいは回復すべきだと考えている者はほとんどいないだろう。パンデミックの巨大な影響力にさらされ、いや応なく変化した社会環境の下で、ツーリズムもまた環境に適応した進化を遂げない限り、生き延びることが難しいのは明らかだからだ。

 観光庁の和田浩一長官はコロナ禍の3年間について、「旅行者の意識の変化や観光が抱えてきた課題の顕在化が進み、観光政策を取り巻く環境も大きく変わった」と振り返る。そのうえで今後について、「単にコロナ禍前に戻すのではなく、環境の変化を踏まえ、持続可能な形で観光立国の復活を図ることが重要」との考えを示す。

 持続可能な回復に向けた方針の柱は、外的要因に対する観光の強靭化、観光産業の生産性向上、観光地域づくりだ。観光の強靭化については、コロナ禍によって国内旅行需要の重要性が再認識されたことから、ワーケーションや第2のふるさとづくりなど新たな国内交流需要の掘り起こしに取り組む必要があるとする。観光産業の生産性向上では、遅れているとされるデジタル化の推進や問題が顕在化している人手不足への対応に力を注ぐとした。また観光地域づくりでは、環境、経済、社会の持続性を高める観点を重視していく。

概念が変わった

 この3年間を振り返り、今後のツーリズムに最も大きな影響を及ぼすと思われる変化は、ツーリズムにおける持続可能性の重要度が急上昇したことだ。コロナ禍前までの日本の観光産業は、インバウンドの急増により表向きは活況を呈していたものの、その裏ではオーバーツーリズムが顕在化。また宿泊施設の増加に人員の確保が追い付かないことで深刻化した人手不足や、過剰な価格競争による利益低下といった問題を抱え、とても持続可能性を見いだせるような状況ではなかった。

 ところがコロナ禍により、強制的に立ち止まって考える時間が与えられたことで、主として観光客を受け入れる地域側に意識の変化があった。地域にとって本当に必要な観光のあり方を問い直す機会が与えられ、かつてのように域外からの観光客誘致を最優先し無理な要求を受け入れたり、正当な対価を伴わないサービス提供を強いられたりする状況を再考することになった。結果的にルールを守らない観光客を拒否したり適正な対価の収受を目指す地域が出現。観光客・観光事業者と地域とのパワーバランスに変化の兆しが見られるようになった。このバランスの変化は今後さらに多くの地域に広がると思われる。

 観光客側の意識も変化している。コロナ禍前は、旅行商品や旅行目的地の選択基準は安さや利便性に偏っていた。しかし、パンデミック下での旅行経験から選択基準や優先順位も変化。対価を支払ってでも衛生面やプライバシー確保を含めた安心・安全な旅行環境を求める傾向が強まった。さらに世代が若くなるほど、環境や社会的課題への対応姿勢を観光地や観光事業者を選択する際に考慮する者が多い傾向が目立つようになった。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年6月26日号で】

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