宿泊業界に人材は戻るか 人手不足問題を考える

2023.04.17 00:00

(C)iStock.com/eelnosiva

宿泊業界の人手不足が深刻な状況にある。企業動向調査によると、業種別で人手不足割合が最も高いのは旅館・ホテルで3カ月連続のワースト業種となった。経営を行き詰まらせる可能性をもはらむ宿泊業界の人手不足。この難題にわれわれはどう挑むべきか。

 宿泊業界の人手不足が危機的なレベルにある。コロナ禍により需要が限りなくゼロに近づく未曽有の事態が発生し、その後も需要低迷が長く続いた結果、宿泊業界は事業継続の断念や規模縮小、それに伴う人員削減を余儀なくされた。多くの人材が業界を去らざるを得ない状況に追い込まれ、他業界に移っていった。

 その結果、コロナ禍の出口が見え需要回復の足取りが確かなものになり、事業の復活や再拡大を急ごうにも人材の確保がままならない事態が生じることとなった。人材獲得のキーワードは賃上げなど待遇面の向上だが、コロナ禍で経営体力が失われた宿泊業界にとっては高いハードルになっている。需要は回復しても担い手が足りない。解消の有効な手立ても見つからない。現在の人手不足の厳しさは業界存亡の危機を語るレベルにある。

 宿泊業界の人手不足は出口が見えない状況だ。帝国データバンク(TDB)が1月に実施した人手不足に対する企業の動向調査によると、人手不足を感じている企業の割合は、正社員に関しては51.7%で5カ月連続の5割超え。非正規社員では31.0%で、こちらも3社に1社の高水準だ。人手不足が各業種共通の課題となっていることが分かる調査結果だ。

 中でも深刻なのが旅館・ホテルの実態だ。正社員の人手不足割合は77.8%に達し、全業種平均を26ポイント以上も上回るレベル。しかも旅館・ホテルは月次で3カ月連続のワーストを記録した。非正規社員に至っては旅館・ホテルの人手不足割合は81.1%にも達し過去最高を記録。全業種平均の31.0%と比較すると2.6倍以上も人手不足割合が大きくなっている。

 人手不足によって宿泊業界は、せっかく迎えた需要回復期にあっても機会損失が多く、十分な収益を得られない事態に陥っている。TDBの調査では「客室稼働率を減らしつつも施設の改修などで単価アップを図り、客室当たりの収益を改善させることで、利益を残せるように工夫を重ねた。そうすれば雑なサービスにならず、リピーターの獲得にもつながる」(和歌山県の旅館)といった工夫も紹介されており、各事業者の奮闘ぶりが伝わってくる。一方で人手不足の厳しさを見るにつけ全体としては焼け石に水の感も否めない。

 今回の人手不足はそのスピードがあまりにも急激なことも問題解消の難易度を高めている。旅館・ホテルの正社員の人手不足割合は、21年1月時点ではコロナ禍の真っただ中で需要もなかったためわずか5.3%にとどまったが、22年1月時点では41.9%まで一気に約8倍に増えている。さらに23年1月時点では前年同月より約36ポイントも急増した。非正規社員も同様で、21年1月時点の人手不足割合を1とした場合、22年1月は2.9、23年1月は4.9であり、わずか2年間で約5倍に増していることになる。これはもちろん他業種と比較しても飛び抜けて急激な増え方だ。

競争を勝ち抜く力が残るか

 コロナ禍後に経済活動が再活発化するなかで人手不足は全業種共通の課題となっており、その帰結として賃上げの動きは避けられそうにない。TDBも賃上げは「人材の獲得や定着に向けて避けては通れない要素となり得る」と予想。その裏付けとして、23年度に賃上げを見込む企業は全体では56.5%であるのに対し、人手不足企業は63.1%が賃上げを見込んでおり、賃金面の待遇改善により人手不足解消を図ろうという意図が多くの企業で見て取れるからだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年4月17日号で】

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