混迷の中国市場 インバウンド復活の鍵握る隣国の動静

2023.03.06 00:00

(C)iStock.com/sofrinaja

需要回復へと動き始めた訪日旅行市場で依然不透明感がぬぐえないのが中国市場だ。中国政府は海外への団体旅行を一部解禁したが対象国に日本は含まれていない。また、日本政府も中国路線の便数制限を行うなど日中間の往来を制限していた。インバウンド再起動の鍵を握る中国市場の復活Xデーに備える。

 世界中を席巻していた中国人旅行者が世界の観光地から姿を消してから約3年。ゼロコロナ政策により海外旅行への道を閉ざされてきた中国旅行市場が、ようやく眠りから目覚めつつある。

 中国政府は昨年12月にゼロコロナ政策を見直し大幅緩和へとかじを切った。中国政府は入国者隔離を1月8日から撤廃し国境を開く姿勢も示した。また1月22日の春節を前に、各種行動規制が緩和されたこともあり今年の春節は久々に中国人の旅行意欲に火が付き、国内旅行を中心に活況を呈することになった。中国文化観光省によれば春節期間中の国内旅行者数は3億800万人となり、19年同期の88.6%まで戻ったという。

 中国人の海外旅行に関しては政府がパスポートの申請手続きも再開し、国内旅行ほどの爆発的な復活ではないものの徐々に増加しており、現地メディアでは春節期間中の出国者が100万人を超えたとのニュースも報じられた。

水際対策巡る日中間の障壁

 回復しつつある中国の海外旅行市場だが、日本市場は出遅れた感が否めない。原因は水際対策を巡る日中間のさや当てだ。

 日本では訪日旅行の本格始動に向けて昨年10月11日から水際対策を大幅に緩和。入国者数の上限撤廃やビザ緩和、個人旅行解禁に踏み切った。海外各国に国境を開くことをアピールし、外国人旅行者に対する歓迎の姿勢を鮮明にした。ところが中国政府がゼロコロナから政策転換し国を開く方針に転ずると、中国からの新型コロナウイルス感染者の流入を危惧した日本政府は、中国政府が水際対策の緩和を表明した直後に、中国からの入国者向けの緊急水際措置を発表した。

 すると中国政府は1月10日、日本人と韓国人に対しては対抗措置と思われる新規ビザの停止に踏み切った。それ自体は中国人の訪日旅行を止めるものではないが、中国政府は訪日旅行も規制。中国文化旅遊部は日本行きの海外旅行商品の販売禁止措置を取り、自国民の日本からの入国についても陰性証明書の取得を義務付けた。

 また、中国ではビザの申請は旅行会社経由で行わなければならないが、政府の始動では申請を認められるのは対象が富裕層に限定されるマルチビザ(5年ビザ)やビジネス関連ビザであるため、そもそも対象者が限られる。観光で訪日旅行を楽しめるのは実質的に「すでにマルチビザを取得済みの富裕層」の個人旅行に限定されている格好だ。

 日本人に対するビザ停止は1月29日に解除され発給が再開されたが、日本行きの海外旅行商品の販売禁止措置は継続している。また中国政府は中国人の海外への団体旅行を2月6日に一部解禁したが、解禁された対象方面はタイやインドネシア、シンガポール、フィリピンといった東南アジアや、ロシア、スイス、ニュージーランドなど20カ国で、中国人旅行者に対して厳格な水際対策を取る日本や米国等は含まれていない。

 航空便が回復しないこともネックになっている。日本政府は中国からの直行便を成田、羽田、関西、中部の4空港に限定しており、中国への直行便の増便も控えるように要請していた。それもあって日中間の航空便の運航状況はコロナ前よりはるかに低いレべルにとどまっている。

 トラベルジャーナルの22年冬期日本発航空座席調査(調査対象期間は22年11月7~13日)では、中国(香港・マカオを除く)路線の週間提供便数と提供座席数は74便・1万1342席。これはコロナ禍の影響を受ける前の19年冬期スケジュールの2524便・27万8454席と比較すれば、便数2.9%、座席数4.1%に過ぎない。日本政府観光局(JNTO)は1月の航空便の状況について、天津/成田の増便などもあり「日本への直行便数は前年同月に比べ回復傾向にある」としているが、大幅な航空座席の供給拡大がなければ需要回復があり得ないことは言うまでもない。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年3月6日号で】

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