ガストロノミーツーリズム 食文化を伝える観光の役割

2023.02.20 00:00

(C)iStock.com/gyro

ガストロノミーツーリズム世界フォーラムの開催など日本の食文化にあらためて世界の注目が集まっている。これを機に日本国内のガストロノミーツーリズム推進の機運も一段と高まりそうだ。食と観光の新たな時代を切り拓くために必要なものとは。

 食は旅行者にとって重要な魅力であり、世界無形遺産の主要な要素でもあることから世界的にガストロノミーツーリズムへの関心が高まっている。国連世界観光機関(UNWTO)は15年からガストロノミーツーリズム世界フォーラムを開催し同分野の深化に取り組む。昨年12月には同フォーラムが日本で初開催となり、わが国での取り組みにも追い風となるはずだ。

 日本でもすでに、日本観光の2大キラーコンテンツである食と温泉を組み合わせた体験の提供を目指すONSEN・ガストロノミー推進機構が16年に発足。同機構の会員は17年4月時点で自治体・企業を合わせて17にとどまっていたが、22年12月には118に拡大。自治体会員は90近くまで増えていることからも、ガストロノミーツーリズムに対する近年の全国的な関心の高まりがうかがえる。

 ガストロノミーツーリズムは「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」と定義される。この考え方は地域に観光客を引き込む動機づけに有効なうえ、どの地域でもコンテンツ作りが可能という利点もあり、各自治体の取り組み意欲は高い。

 静岡県はコロナ禍からの観光需要回復を見据え22年度からガストロノミーツアー推進を予算化。昨年10月以降、日帰りと宿泊コースを合わせて8コースのモデルツアーを造成した。またガストロノミーツアー推進の一環としてガストロノミーツーリズム研究会を立ち上げ、食と食文化に関する知見を共有し新たな観光サービスを創出することを目指している。

 長野県は味噌や漬物、日本酒、ワイン、チーズなど発酵食品の生産が盛んな「発酵王国」の強みを生かし、発酵食品文化を核にしたガストロノミーツーリズムに取り組んでいる。

 19年にワイン県宣言を行った山梨県は、世界的にも評価が高い甲州ワインや、甲斐サーモンなど地元食材を使った高品質な料理を提供することで付加価値を高め、富裕層にフォーカスしたガストロノミーツーリズムを促進中。それぞれの自治体が地域の特色を生かしたガストロノミーツーリズムに取り組み始めている。

 このほか新潟市は21年に「にいがた食文化ナビゲーター養成基礎講座」を開催し、新潟市を中心としたガストロノミーツーリズムのプランを検討。「天下の台所」を標榜する大阪でも、大阪観光局が食の魅力に関する情報発信を強化中だ。

 民間企業もガストロノミーツーリズムには積極的で、ANAグループはONSEN・ガストロノミー推進機構の立ち上げにかかわり、ANA総合研究所が事務局役を担うほか、JALグループも昨年からガストロノミーツーリズムのツアーを商品化。今年2月に奄美大島を舞台に第1弾ツアーを実施、夏には和歌山県で第2弾を計画している。

農水省と観光庁が推進強化

 観光立国を推進する国もガストロノミーツーリズムに着目し、インバウンド誘致を念頭に関連政策を強化している。農林水産省はインバウンド需要を農山漁村に呼び込むことを目的に、食と食文化の魅力を使ってインバウンド誘致を図る優れた地域を「農泊 食文化海外発信地域(SAVOR JAPAN)」に認定し、ガストロノミーツーリズム推進を後押ししている。16年に認定を開始しており、昨年12月に新たに認定した最新の4地域(北海道網走市、愛知県田原市、広島県呉市、熊本県阿蘇市)を含め全国41地域をSAVOR JAPANとしている。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年2月20日号で】

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