海外旅行に試練の夏 待望のツアー再開も逆風強く

2022.08.15 00:00

(C)iStock.com/Nikada

政府の水際対策緩和を受けて国際線の再開・増便が進み、海外パッケージツアーの販売も続々と再開される今年の夏。一方で燃油サーチャージの大幅な値上がりや地上費高騰、加速する円安傾向などが海外旅行意欲に水を差している。海外旅行に試練の夏が始まった。

 コロナ禍によって海外旅行の扉が閉ざされてから3年目に入った今年3月。政府は日本人の観光目的の海外旅行が実質的に可能になるレベルに水際対策を緩和し、4月には感染症危険情報がレベル3(渡航中止勧告)からレベル2(不要不急の渡航自粛)に引き下げられた。これを受けて旅行各社は海外旅行商品の販売を再開。ゴールデンウイークに合わせてパッケージツアー販売の自粛を解く旅行会社が次々と登場した。ANA Xがダイナミックパッケージ販売を再開すると、ジャルパックやエイチ・アイ・エス(HIS)、JTBなど主要な旅行会社が競うように続いた。

 6月からは水際対策のさらなる緩和や、入国人数の上限2万人への引き上げも実現し、今夏の海外旅行の本格再開に期待が高まった。需要増加を見込み全日空は7月からハワイ定期便でA380型機「FLYING HONU」の運航を2年ぶりに再開し成田/ホノルル線を週2便運航。羽田/ホノルル線も週4便から週5便に増便した。日本航空も8月からホノルル線を増便し、成田/コナ線も2年ぶりに再開した。日本人の海外旅行先として人気のデスティネーションでは日本からの航空便再開や増便が相次ぐが、海外旅行市場回復の足取りは総じて鈍い。

 JTBの夏休み(7月15日~8月31日)の旅行動向見通しでは、夏休み中の海外旅行者数は50万人。21年比では555.6%と大幅な増加となるが19年との比較ではまだ17%程度にとどまっている。今年の夏休みに旅行に「行く」または「たぶん行く」と回答した人は36.1%で前年から14.7ポイント上昇しているにもかかわらず、その行き先として「海外」を挙げた人は4.7%に過ぎず、19年の10.5%の半分にも満たない。

 ブッキング・ドットコムが7月に発表した今夏の「旅行態度指数」調査によれば、旅行予約をする際の主な懸念点や妨げになり得るものについての質問に対する日本人の回答で最も多かったのは「病気になることの不安」が約半数の47%で、次が「費用」で37%を占めた。仮に感染症への不安が払拭されたとしても、費用の問題が需要の足を引っ張る可能性が考えられる。

 懸念材料の1つはウクライナ情勢を背景に高騰する燃油費だ。2カ月ごとに改定される燃油サーチャージは、4カ月前の航空燃料価格(2カ月平均)が基準となる。このため6~7月の燃油サーチャージ額の算出基準となるのは2~3月、8~9月の燃油サーチャージは4~5月が基準となる。従ってロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月下旬以降の原油価格高騰がちょうど今夏の燃油サーチャージを押し上げる結果となっている。

 6~7月発券分の燃油サーチャージが史上最高値を記録したと思えば、8~9月発券分のそれはさらに大幅に上昇。例えば日本航空の1人1区間片道当たりの日本発着区間設定額は、韓国・極東ロシアが5900円、グアム・パラオ・ベトナム等は1万7800円、タイやシンガポールは2万4700円、ハワイやインドネシアは3万500円だ。北米・欧州・オセアニア等に至っては6~7月発券分が3万6800円だったのに対し8~9月発券分は1万円以上も高い4万7000円にもなる。

 HISは夏休みの旅行予約動向で、ロンドン、パリ、バンクーバー、ロサンゼルスなどが予約者数上位ランキング内にあることから「燃油サーチャージの値上がりによる価格高騰は消費マインドを大きく押し下げる要因に至っていない」と分析する。とはいえ前例にない高額な燃油サーチャージだけに今後の影響増大が懸念される。

 さらに追い打ちをかけるのが急激な円安だ。6月29日には一時1ドル137円台をつけ、24年ぶりの円安レベルとなった。その後も円安基調は変わらず直近の対ドルレートも136円台(7月26日時点)となっている。現地での物価高も進行しており大幅な円安は日本人海外旅行者にとっては現地滞在費用増大のダブルパンチとなって重くのしかかる。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年8月15・22日号で】

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