カスタマーハラスメント 顧客対応現場の守り方

2022.02.21 00:00

(C)iStock.com/Makhbubakhon Ismatova

観光産業のさまざまなシーンで見られる顧客からの理不尽な要求や悪質なクレーム、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)が増加基調にあるようだ。背景にはコロナの長期化に伴う社会的ストレスの増大もうかがえる。カスハラの現状と顧客対応現場の守り方について考える。

 全日本交通運輸産業労働組合協議会(交運労協)は昨年「悪質クレーム(迷惑行為)アンケート調査」を実施し、11月に報告書をまとめた。労働現場における迷惑行為、いわゆるカスハラに関する実態調査は、UAゼンセンが17年と20年に実態調査を実施しているが、交運労協としての調査はこれが初めてだ。

 調査の背景には、交運労協に加盟する交通運輸・観光サービス産業の各現場におけるカスタマーハラスメントの増加がある。交運労協によれば、利用者からの暴力行為は依然として高い水準にあるものの発生件数は減少傾向にあるのに対し、暴言や悪質なクレームといったカスハラは深刻度を増しているという。「特にコロナ禍を境に状況が悪化しエスカレートしているという報告が、交運労協の18構成組織から上がってきていた」(交運労協事務局)ことから実態調査に踏み切った。

 暴力行為は刑法で取り締まることができ、職場のパワハラ防止策も法制化が進んだ。カスハラに関しても20年6月施行の改正労働施策総合推進法の指針として、顧客からの著しい迷惑行為に関して行うことが望ましい取り組みが初めて明示されるなど、前進は見られる。しかし、実効性につながる明確な対策はまだないのが実情だ。その一方で、カスハラの内容は言葉の暴力やSNS等を使った攻撃、家族への誹謗・中傷など悪質化と陰湿化が進行。交運労協は報告書の中で「労働現場の尊厳が奪われようとしている」と事態の深刻さを訴えている。

カスハラ被害経験者は約半数

 「悪質クレーム(迷惑行為)アンケート調査」は、鉄道、トラック、バス、タクシー、航空、海運・港湾、観光サービスなど所属組合員を対象に昨年5~8月に実施され、2万908人から回答を得た。それによると、直近2年以内に迷惑行為の被害に遭った者の比率は約半数の46.6%に達しており、直近2年で迷惑行為が増えているとの回答も57.1%にのぼった。

 被害に遭った者の分野別比率はタクシー58.0%、バス54.4%、鉄道52.4%と地上運輸系が高い傾向にあるが、航空でも41.8%、観光サービスでも40.4%と4割超となった。また直近2年の被害が増えていると感じた者が最も多いのは航空で69.1%。次いでバス63.8%、鉄道54.4%などだが、観光サービスも48.6%と多く、タクシーの40.3%を上回っている。タクシーはもともと被害が多く、増加を感じるまでもなく被害が日常化してしまっているとも考えられる。

 観光サービスで直近2年以内で被害に遭った回数は、1回以上5回までが32.1%だが、6回以上10回まで繰り返し被害に遭っているとの回答も5.5%。さらに16回以上のケースも2.0%あった。

 アンケートに寄せられた自由回答からは「年々、悪質なお客さまが増えているように思う。会社はもっと毅然とした対応ができるような体制を作ってほしい。非がないのに謝り続けるのはおかしい」(鉄道関係)、「昨年からは浮浪者の徘徊、障害者であることを理由に対価以上の要求をする人物、暴言を吐く若者(20~30代男性)、客室を正しく利用しない若者(20~30代)が増えたと感じる。特にこの2年はひどく、現場の退職者の理由の多くがゲスト対応によるもの」(観光サービス関係)など、悲鳴が聞こえる。

 特にコロナ禍以降、被害が増えているとの指摘は多い。「コロナの影響で心に余裕がなくなってきているのか、少しのことで激昂する人が増加している」(鉄道関係)、「コロナ前からワガママで多数の迷惑をする世代(60代以上の男性)がコロナ禍でさらにエスカレートして多くの従業員のストレスにつながっている」(同)との回答があった。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年2月21日号で】

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