自己変革の旅 トランスフォーマティブ・トラベラーをつかむ

2024.02.19 00:00

(C)iStock.com/pongvit

欧米を中心にトランスフォーマティブ・トラベルへの関心が高まっている。訪日旅行の成長と発展のためには取り組みを強化すべきマーケットセグメントだとされる。いまなぜトランスフォーマティブ・トラベルなのか。そしてこの需要を、どのように取り込んでいけばよいのだろうか。

 トランスフォーマティブ・トラベル(Transformative Travel)を直訳すれば「変容の旅」や「変革の旅」となる。Transformativeとは「何か(誰か)をより良く変える」ことを意味し、「自己変革の旅」と訳されることもある。言葉を補えば「旅行という非日常の体験で得たものを旅行を終えた後も日常生活に反映させ、体験者の人生にそれまで以上の豊かさをもたらす旅行」となる。

 米トラスフォーメーショナル・トラベル・カウンシル(TTC)の共同創設者マイケル・ベネット氏はトランスフォーマティブ・トラベルは3段階のプロセスで構成されると説明する。第1段階は「それまでの環境や自分自身から離れ次の世界へ踏み出す意図的な旅立ち」、第2段階は「その新しい環境と新たな意識の下で旅の体験から手ほどきを受けること」、そして第3段階は「ヒーローズ・ジャーニー(英雄譚)の主人公としての帰還」だ。

 ヒーローズ・ジャーニーとは物語の類型の1つで、物語の主人公がいつもの暮らしから抜け出して、未知の環境でさまざまな困難に直面しながら成長を遂げ、最終的に自分自身や周りの人々に良い影響を与えるというストーリーのことだ。

 この3つのプロセスで構成されるのがトランスフォーマティブ・トラベルの必須要件となる。

 日本語にはこうした概念をうまく伝える単語はないが、英語にはセレンディピティという単語もあって、トランスフォーマティブ・トラベルのコンセプトを理解しやすい。偶然な良い出会いや予想外のものを発見すること、あるいは探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること、偶然をきっかけに幸運をつかむことをいう。

 日本語から想起する「自己変革の旅」というほど明確な目的意識には縛られず、自らを良い方向に変えるチャンス(偶然)を求める旅がトランスフォーマティブ・トラベルと言い換えることもできる。

なぜいま自己変革の旅なのか

 トランスフォーマティブ・トラベルが欧米で注目を集め始めたのは16~17年ごろ。米国でTTCが設立されたのも16年のことだ。当時はすでに旅行形態の中で体験型旅行が重要なポジションを占めるようになっていたが、その先にある旅のスタイルとして富裕層を中心に関心が高まり、その後も一般層を含め注目度が高まり続けている。

 欧米で注目を集めるようになったのは、世界的なスピリチュアルなものへの関心の高まりがあり、時代の必然でもあった。XPJPの渡邉賢一代表取締役が指摘するのは欧米で進行するSBNR現象だ。SBNRはSpiritual But Not Religiousの意味で、堅苦しい宗教とは切り離したうえでスピリチュアルなものへの関心を高めている現代人の存在を表している。

 米国の大学や宗教関係の研究団体の調査によれば、米国人の18%、Z世代に限ると90%がSBNRで、欧州でも35%を占める。「こうした流れが自然との共生、社会との共創への関心増大の背景要因になり、旅のあり方にも変化をもたらした。つまり、旅を通じて世界や自然、社会との関わり方や自分自身の新しいあり方を模索しつつ学び、成長し、未来の価値を共創していきたいという思いが高まっている」(渡邉代表)

 こうした動向に伴い、旅行の目的と形態も変化している。かつては休暇や余暇のアクティビティーとして、もっぱらリゾートを楽しんだりショッピングに奔走することが旅行の主流だった。次に興味・関心を原動力にして、例えばインスタ映えする絶景や、未体験の場所・時間を求める旅行が台頭した。それが現在では自己探求や気づきを求める旅行として、トランスフォーマティブ・トラベルにつながっている。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年2月19日号で】

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