旅のビジネスモデル 新しい形が必要かもしれない

2024.02.05 00:00

(C)iStock.com/gyro

インターネットの普及はサプライヤー直販を促し中間事業者の機能を奪い旅行業の力を削いだ。サービス提供側の最低価格保証戦略の前では低価格ツアーも分が悪い。旅行系スタートアップに期待がかかるが訪日分野以外での動きは鈍い。次なる新規プレーヤーの誕生が待望される。

 観光系スタートアップをインターネット検索すれば、数十社の事例をたやすく見つけられる。しかしその多くは観光ビジネスの中でも、未開拓であったり社会的なトレンドを捉えた個別分野のスタートアップであるケースが多い。

 例えば、かつては注目度が低く未開拓だったタビナカの分野では世界的にスタートアップがしのぎを削り、日本でもアソビューやベルトラなどが実績を挙げている。社歴的にも規模的にもスタートアップの領域を脱しつつある段階だ。また、インバウンド隆盛は最近のことであり、観光系スタートアップは未開拓だったインバウンドに集中している。

 社会的なトレンドとの関係で見れば、シェアリングエコノミーやサブスクリプションを観光や宿泊分野に取り入れたスタートアップが健闘。カブクスタイルやアドレスは事業展開を拡大している。別の切り口で見れば、宿泊、レジャー施設・体験(タビナカ)、交通機関、通訳など旅行の構成要素を単体で事業化する事例が多いのも観光系スタートアップの傾向だ。

 旅行を単体の構成要素に分解せず、旅行に出かけたい人々を総合的にサポートする旅行業の真ん中でのスタートアップ事例は決して多くない。この分野はすでに外資を含む大手OTA(オンライン旅行会社)がしのぎを削り、資本力や技術力の点で新たなプレーヤーが新規参入するのは荷が重い分野だ。OTAが取り込み難いコンサルティング需要に関しても、店舗網を持つ伝統的な旅行会社が押さえており、ここにも食い込みづらい面がある。

 それでも「スカイチケット」を運営するOTAのアドベンチャーはマザーズ市場への上場を果たしているが、健闘する事例は少数派だ。コロナ禍の最中に、この分野で果敢な挑戦に打って出た令和トラベルはこの難しいミッションに取り組んでいる。会員制宿泊予約サイト「リラックス」を運営するロコパートナーズ創業者の篠塚孝哉氏が設立した同社は「リアルエージェントでもOTAでもない、デジタルトラベルエージェンシー」を標榜。海外旅行予約アプリ「NEWT(ニュート)」を開発し、スマホ時代の旅行予約の革新を目指している。

 旅行業の真ん中で、なおかつOTAでもない、全く新しい旅行事業の確立を目指したスタートアップもあったが、代表的な取り組みがいずれも頓挫している。17年創業のホットスプリングは18年5月から「ズボラ旅byこころから(略称ズボラ旅)」のサービスを開始した。OTAのサービスが行き先、日程、人数などの条件を入力する必要があるのに対し、旅行をしたいという意思さえあれば「出発地と、なんとなくこんな旅がしたい」という要望だけで、あとは旅行の内容を提案し手配完了までズボラ旅が伴走する。

 対面サービスを提供する店舗型の旅行会社の得意分野だが、ズボラ旅はすべてスマホのLINE上で完結し来店不要という手軽さが特徴だった。チャットボットの自動化対応ではなくスタッフとのチャットで旅行の相談を受け付けるコンシェルジュサービスで、新たなビジネスモデルとして大きな注目を集めていた。

 注目度が高すぎて、サービスリリース直後は2時間で4000件もの想定を上回るリクエストが殺到。リリース当日にサービスがパンクする事態を引き起こしたほどだ。その後、フローの改善や1日の相談件数の上限を設けたほか人員体制も強化。1年後には海外旅行の取り扱いも開始した。しかしリリースから約2年半後の20年12月にサービスを終了。スタッフが一人一人とLINEで相談に乗り旅行予約を手伝うビジネスモデルの高コストがネックとなり、同社の別の旅行予約サービス「こころから」事業に経営資源を集中する判断が下された。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年2月5日号で】

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