免税制度の岐路 方式変更の影響を考える

2024.01.29 00:00

(C)iStock.com/Wavebreakmedia

政府は外国人旅行者向け消費税免税制度の抜本的な見直しに着手する。免税品を国内で販売する転売ヤーなどの不正行為防止が念頭にあり、出国時に消費税を払い戻す還付方式を検討する。制度変更の背景と影響について考える。

 人気スマートフォンiPhoneの免税販売に関し、東京国税局がアップル日本法人に対して約140億円もの追徴課税を行ったとする報道が世間をにぎわせたのは22年末のこと。訪日客に対する免税販売の問題点を強く印象付けるものだった。この数年、こうした免税販売に関する億円単位の追徴課税のニュースが相次いでいる。

 22年は小田急百貨店や松屋、そごう・西武、23年には大丸松坂屋や三越伊勢丹に関する同様の事案が報じられ、24年に入っても新年早々に東武百貨店の追徴課税が取り上げられた。関西では23年に阪急阪神百貨店の事案がニュースとなり、大手百貨店が東西を問わず軒並み追徴課税の対象となってしまった印象だ。

 百貨店以外の流通業でも同様の問題が発覚した。最大手のイオングループは東京国税局による税務調査により、未払い消費税として2億3000万円余りを納付した。同社によれば、内訳は消費税免税書類保存期間不順守による消費税未払い分が1億4300万円、本人確認不備によるものが9300万円。この問題を受けて同社は、免税に関わる職務体制や教育体制の整備、日々の免税販売実績モニタリングなど再発防止策を発表した。

 マツモトキヨシも21年までの3年間の免税販売に関し、14億円を追加納付したと発表している。

増える不正利用

 免税制度の不正利用は、多額・多量の商品を免税で購入し国内で転売することで不正に利益を得る、いわゆる転売ヤーが百貨店などを舞台に不正を働くパターンがある。また免税店を経営する事業者が制度を悪用し、消費税の不正還付を受けるパターンもある。全国免税店協会によれば、訪日客に電化製品を免税販売したように装い、実際は仕入れ値に数%だけ上乗せした価格で国内業者に販売し、消費税の不正還付を受けていた事例などがあるという。事業者による消費税不正還付に関連して、23年には都内の貴金属買取会社が経営する免税店10店舗の免税販売許可が一斉に取り消された。免税販売が不正の温床であるかのようだ。

 財務省によれば、21年7月から22年6月までに消費税還付申告法人に対して約4300件の実地調査を行い、追徴税額は約372億円に達した。また22年11月には、免税店制度を悪用した者に対する調査状況を明らかにしている。それによると、21年7月から22年6月までに外国人旅行者等に対する30件の実地調査を行い即時徴収の対象となった税額は総額12億円。1件当たりの追徴税額は4143万円だ。地域で最も多かったのは大阪国税局管内で、22件の調査で9億円を追徴。東京国税局は3件の調査で3億円だった。わずか30件の調査で12億円分の不正とは驚きだ。

 また財務省によれば、22年度に空港などの税関で消費税の賦課決定をしたのは367件あり、その額は約22億円だったとしている。ところが、このうち153件・21億3000万円が滞納状態。件数の4割、金額の97%が徴収できていないわけだ。徴収できない理由について、財務省は「出国までの限られた時間のなかで賦課決定を行っても、消費税額相当の徴収に至らず滞納となっているケースが存在する」と説明する。強制的な納付が難しく、そのまま出国も多いという。まさに逃げ得のケースだ。

 国税庁レポート2023でも「近年、国内事業者(ブローカー)等の指示の下、多量・多額の免税購入を行ったうえで、国外に持ち出さずに国内転売することで不正に利益を得るなどの事例や、これを免税店が主導するといった悪質な事例が把握されている」と指摘している。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年1月29日号で】

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