1300万人時代の海外旅行 渡航自由化60周年のリスタート

2024.01.01 00:00

(C)iStock.com/ideabug

海外旅行の需要回復が遅れ、23年は1000万人割れが濃厚だ。24年も1300万人前後にとどまる可能性は高い。今年、海外渡航自由化60周年を迎える海外旅行ビジネスは、リスタートに向けた正念場を迎える。

 日本政府観光局(JNTO)によると、10月の出国者数は93万7700人で、前年同月の約2.7倍となったが19年同月の166万3474人と比べると56.4%にとどまる水準だ。1~10月の累計人数も764万9100人で、19年同期の1672万6017人の45.7%で半分にも満たない状況だ。

 23年5月には世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う緊急事態宣言の終了を発表し、日本でも感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザ並みの5類に移行。日本を含む各国での水際措置の完全撤廃が進んだ。猛威を振るったコロナ禍が沈静化し3年ぶりに自由に旅行ができる環境が戻ったことで、海外旅行需要の復活にも期待が高まった。

 観光庁も23年3月に決定した新観光立国推進基本計画で掲げられた「25年までに19年水準(2008万人)超え」との目標に向け、「アウトバウンドの本格的な回復に向けた政策パッケージ」を策定。諸外国との連携体制の強化、戦略的かつ効果的な取り組みの推進、安全・安心な旅行環境の整備・青少年交流の促進の3本柱を掲げた。また目標達成へ向けて、観光庁と旅行・航空業界の若手15人で構成する検討会も設置。若年層の海外旅行を促進するための具体策の検討にも取り組んだ。

 水際措置が撤廃された5月には、旅行・航空業界や各国・地域の政府観光局などと連携して「今こそ海外!」宣言も出し、海外旅行促進の雰囲気醸成にも取り組んだ。

 「アウトバウンドの本格的な回復に向けた政策パッケージ」の策定に先駆け、観光庁ではZ世代を対象に「海外旅行に関する意識調査」を実施。Z世代の4割以上が「23年こそ海外旅行に行きたいと思う」と回答し、1~2回の海外旅行経験者に絞るとその割合が90.9%まで高まることから、潜在需要の存在に期待は高まっていた。

 ところが実際には水際措置が撤廃された5月以降も海外旅行需要は伸び悩んでいる。5月の出国者数は67万5603人で19年比47.0%。4月の33.6%よりは13ポイント以上回復したものの、その後は6月46.2%、7月53.7%、8月56.9%、9月57.4%、10月56.4%と勢いが見られない。1~10月の累計人数も19年同期の半分に満たないことは冒頭で紹介した通り。あと2カ月で235万人以上を上乗せして年間1000万人を超えることはほぼ期待できない状況となっている。

 旅行会社の取扱状況からも海外旅行の苦戦ぶりが伝わってくる。海外旅行を主力事業としてきたエイチ・アイ・エス(HIS)は、5月からの5類移行に合わせて新規パスポート申請代金の全額負担などの特典を付けた夏旅応援企画を実施したが、5月の海外旅行取扱額は19年同月比54.0%、6月も同57.6%にとどまった。7月からは夏のレジャーシーズンを迎え64.3%、8月71.6%と順調に上昇傾向に乗ったかに思われたが、9月70.0%、10月66.9%と再び下降に転じた。同社によると年末年始の海外旅行予約動向も前年同期比では263.8%となったものの、19年比では5割にとどまっている。

回復遅れる大きな要因

 海外旅行需要の回復がはかばかしくないのは何が理由なのか。10月のツーリズムEXPOジャパン期間中に観光庁が主催した「日本人の海外旅行促進に関するシンポジウム」で、観光庁の委託を受けて日本人のアウトバウンド旅行調査を実施した三菱総合研究所観光立国実現支援チームが、海外旅行需要の回復の遅れに関する原因分析を行った。それによると考えられる大きな原因として経済状況に関する4つのポイントが挙げられた。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年1月1・8日号で】

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