支払い遅延トラブル ブッキング・ドツトコム問題から得た教訓

2023.12.11 00:00

(C)iStock.com/t_kimura

ブッキング・ドットコムの宿泊料金支払い遅延問題は宿泊施設による集団訴訟にまで発展した。オランダ本社の財務システムのメンテナンスの際に生じた不具合が発端とされる今回の騒動。宿泊ビジネス関係者にとっては、海外OTAとのビジネスに伴うリスクについてあらためて考えさせられる展開となった。

 ブッキング・ドットコムと契約する宿泊施設は6月9日付で、ある通知を受け取った。内容は7月1~11日にプロダクトおよびサービス強化の一環として財務システムのメンテナンスを実施することを告げたもので、「弊社の財務関連サービスに一部影響が発生する」と予告している。メンテナンスに伴い宿泊施設への支払いがイレギュラーな形になる可能性があることも示唆している。しかし通知を読む限り、システムメンテナンスが大騒動の原因となることは予想できないものだった。

 その後、ブッキング・ドットコムの宿泊施設への支払いが遅延するようになり、遅延が2カ月、3カ月と長引くと、経営に影響を及ぼしかねない状況に追い込まれる宿泊施設も現れ、社会問題としてメディアで取り上げられるようになった。

 ブッキング・ドットコムは10月10日付で公式ホームぺージに支払い遅延についてのメッセージを掲載。最優先事項であるべき期日通りの支払い履行ができず、「一部のパートナーの皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけしたことをお詫びする」と謝罪。その上で支払い遅延の理由については「パートナーの皆様、お客様、システムにとって、引き続き高レベルのオンライン上の安全性とセキュリティを確保するため、新規の金融・決済プラットフォームへ移行する過程で、必要不可欠なシステム改善を実施する必要があり、計画に沿ったメンテナンス作業を行っていたことを受けたもの」と説明。この過程で予期せぬ技術的な問題が発生し一部のパートナー各社への支払いが遅延しているものの、緊急に対応しているところだと付け加えている。

 その後も支払いの遅延状態は解消されず、多くの宿泊施設が頭を抱えていた。全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)が10月12~16日に実施した緊急アンケートによれば、入金遅れが「ある」と回答した施設は全回答846軒のうち2割以上の194軒。遅れている入金の対象は9月分とする宿泊施設が159軒。しかし6~7月分が54軒、8月分が47軒と時間を追って減少する傾向が見られ、全旅連は「入金遅れについては解消されている先が多い」と分析している。

 10月18日にはブッキング・ドットコム・ジャパン代表者との面会に漕ぎ着けた宿泊施設もあったが、謝罪の言葉はあったものの、支払いが遅れている詳細な理由や具体的な支払い日等の説明はなかったという。

 解決の目途が見えない宿泊施設の中からは業を煮やして集団訴訟に踏み切る動きも出た。原告に名を連ねた宿泊施設からは「ブッキング・ドットコムの日本法人に何度も督促しても、のらりくらりとした対応で資金回収ができない」と不満を漏らす声も上がった。またSNS上で「募集ブッキング・ドットコムの未払いで困っている方へ」と呼びかけ集団で事に当たろうという運動もあって、集団訴訟につながった。

 新宿でインバウンド向け宿泊施設を運営する資産デザイン研究所や、岐阜と奈良で旅館を運営する橘など11社が原告に名を連ね、ブッキング・ドットコムのアムステルダム本社と日本法人のブッキング・ドットコム・ジャパンを相手取り、10月20日付で東京地方裁判所に訴状を提出した。訴状によると弁護士費用を含む損害賠償請求額は総額3669万1853万円。各社の請求額は最大で約1600万円、最少で約10万円。また訴状到達から支払い済みまで年3%を支払うことも求めている。

 観光庁はブッキング・ドットコムに対し事実確認を行い、その原因について「7月のシステムメンテナンスの不具合により、取引のある全世界の宿泊事業者への送金がストップしたことによるもの」と説明を受けたとしている。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年12月11日号で】

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