ライドシェア解禁へ 業界の反発強く突破口探る

2023.11.13 00:00

(C)iStock.com/frantic00

コロナ禍を経て深刻化するタクシー不足を背景に自家用車で有償送迎を行うライドシェア解禁に向けた議論が再び動き始めた。一方でタクシー業界の反発は根強く、見通しは不透明だ。今回の議論でライドシェア解禁への着地点は見いだせるのだろうか。

 コロナ禍の沈静化により観光を含む人の移動が再開したのに伴い、タクシードライバーの人手不足が深刻化。インバウンドの急増も加わり、タクシーの需給バランスが崩れ、タクシー待ちの長蛇の列が常態化する地域が増えつつある。こうした状況を背景に、ライドシェア解禁を求める声が次第に大きくなりつつある。

 8月には地方講演で語った菅義偉前首相のライドシェア解禁論が報道され、解禁に前向きな河野太郎デジタル相の発言もメディアで紹介された。9月には新設のデジタル行財政改革担当相を兼任する河野デジタル相が、デジタル行財政改革会議を活用してライドシェア解禁の議論を始める意欲を表明。タクシー運転手に必要な2種免許の取得年齢制限の引き下げを含む規制緩和などとともに、タクシー不足解消に向けた取り組みの1つとしてライドシェア解禁を検討していく方針を明らかにした。

 10月11日に開催された第1回デジタル行財政改革会議では主な改革への取り組みに着手する6分野の1つに交通分野を掲げ、タクシーやバスが不足する地域での自家用車や一般ドライバーを利用したライドシェアの活用について検討していく方向性が示された。

 10月23日には岸田文雄首相が所信表明演説で「地域交通の担い手不足や、移動の足の不足といった、深刻な社会問題に対応しつつ、ライドシェアの課題に取り組んでいく」と言及した。

 日本では一般ドライバーが自家用車で客を運び対価を得れば、いわゆる白タク行為として道路交通法違反の取り締まり対象となる。例外として認められてきたのは、災害による緊急時や国土交通省が認めた者(例えば市町村やNPO)が公共の福祉を目的に区域内の住民の運送を行う場合等に限られた。しかし15年10月の国家戦略特区諮問会議で、安倍晋三首相(当時)が「過疎地などでの観光客の交通手段として自家用車の活用を拡大する」規制緩和の検討を指示。18年から、国家戦略特区の兵庫県養父市で地域住民だけでなく観光客も利用可能な自家用車による有償旅客運送(ライドシェアサービス)が始まった。

 06年の道路運送法改正で制度化された自家用有償旅客運送制度を活用してライドシェア実現に迫る動きもある。運送事業者による交通サービス提供が困難な場合、バスやタクシーを補完する交通サービスとして地方公共団体や住民が主体となって移動ニーズに応えるものだ。しかし営利事業として認められていないため、道路運送法は運送の対価について実費の範囲内であることを求める。また対価の目安としては「当該地域におけるタクシーの上限運賃の概ね2分の1の範囲内」としてきた。

 自家用有償旅客運送制度自体が主にボランティア的な輸送として想定されるためだが、利用者の利便性を向上させるための例えば配車システム利用やドライバーの人件費などのコストを賄い持続可能な運営をするには対価のレベルを上げるべきとの考え方もある。対価引き上げの考え方について国交省自動車局は5月に発表した「ラストワンマイル・モビリティに係る制度・運用の改善策」の中で触れている。この流れを考えれば過疎地を対象とする自家用有償旅客運送制度を観光地や都市部でも使いやすくすることで日本版ライドシェアを実現する道筋もある。

経済界からは新法の提案

 自治体単位でライドシェアの議論を先行させる動きもある。神奈川県ではタクシー事業者や業界団体、関東運輸局も参加する神奈川県版ライドシェア検討会議を設置し、10月10日に第1回会議を開催した。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年11月13日号で】

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