旅行業界とコンプライアンス なぜ不正は後を絶たないのか

2023.10.02 00:00

(C)iStock.com/Lan Zhang

旅行会社の不正事案が後を絶たない。一昨年から相次いで発覚した雇用調整助成金やGoToトラベルがらみの給付金不正受給に加え、今年は近畿日本ツーリストや日本旅行による自治体関連事業における不正請求事案が判明した。ガバナンスの不全やコンプライアンス意識の欠如は旅行業界の体質的な問題と言わざるを得ないのか。

 KNT-CTホールディングスが新型コロナウイルスワクチン接種に係わる業務における不正請求問題に揺れた。この件ではすでに近畿日本ツーリスト(KNT)社員4人が詐欺罪の疑いで逮捕、起訴されており、問題の責任を取ってKNTの髙浦雅彦代表取締役社長が8月31日付で辞任している。

 発端は東大阪市で発覚した過大請求だった。同市は4月13日付で「新型コロナワクチンコールセンターにおける人員配置不足について」という文書を発表。この中で21年3月からKNTに委託している新型コロナワクチン接種事業の実施に必要な業務のうち、コールセンターの稼働席数が契約席数に対して不足していたことが判明したとして、差額の約2億8900万円の返還を求めるなど必要な対応をとると説明した。同市の委託を受けていたのが関西法人MICE支店だった。

 その後、ワクチン接種に係わる同種の受託事業を始めてからの過去3年間について社内点検した結果、関西法人MICE支店、静岡支店など4支店での過大請求が確認された。他の2支店は東日本支社に属する支店と北日本支社に属する支店だがいずれもMICEを中心に団体旅行の企画販売業務を主力としてきた支店。さらにその後の調査で過大請求は最大で約50自治体・約9億円にのぼると見積もられた。

KNTに続き日旅にも不正事案

 日本を代表する大手総合旅行会社の不正事案はこれにとどまらなかった。5月には日本旅行が愛知県から受託していた全国旅行支援「いいじゃん、あいち旅キャンペーン」の事務局運営業務に関して不正請求があったことが公表された。担当した愛知法人営業部が、実際には勤務実態のない日本旅行の社員が働いたとする等の虚偽報告に基づき、564万円余りの不正請求をしたというものだ。

 その後、同社は過去3年間の同種事業について全国2457案件の総点検を実施し、愛知県以外には不正は見当たらなかったと結論。不正にかかわった社員の処分と、代表取締役社長と代表取締役常務の役員報酬の一部自主返上で区切りをつけた。

 不正請求の背景として共通するのがコロナ禍の影響だ。コロナ禍により一時本業が壊滅し、活路を見いだした先が国や自治体等からの外部一括委託需要を取り込むBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業だ。コロナ禍で旅行需要が消滅する一方、全国の各自治体からはコロナ関連のワクチン接種や各種支援業務のBPO需要が大量に発生し、人員と関連ノウハウを持つ大手総合旅行会社にとっては頼みの綱となった。

 今回の問題に関して日本旅行が行った6月29日の会見では、同社が強化しているソリューション事業の柱としてのBPO事業の重要性が説明され、旅行業・MICE事業を通じて蓄えた人の誘導や移動、会場設営等を含めた運営ノウハウと、ホスピタリティーの強みがBPO事業に強みとなることも説明された。そんな有望ビジネスと目されるBPO事業で不正を行ってしまったことについて舘真代表取締役常務は「痛恨の極み」と表現した。

 KNTにおいてはコロナ禍以降のBPO事業への依存がより鮮明だ。8月9日に公表された調査委員会による調査報告書でもBPO事業依存の実態が指摘された。20年秋頃から各地方自治体によるワクチン接種関連事業の受託者の公募が始まると、自治体側からの応募打診もあって積極的に受注しBPO事業の受注が増大。21年度および22年度には、KNTの売上総利益の半分程度がBPO事業により占められている状況となっていたという。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年10月2日号で】

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