ホープツーリズム ありのままを伝える福島復興の旅

2023.08.14 00:00

(C)iStock.com/arthon meekodong

複合災害を経験した福島で新しい学びのスタイルとして考案されたホープツーリズムが広がりを見せている。参加者は22年度に前年度の1.8倍に増加し、23年度以降もさらなる誘客拡大に期待がかかる。福島第1原発の視察受け入れが拡大、一般向けツアーの造成も始まる。ホープツーリズムの現在位置とこれからをまとめた。

 東日本大震災で大きな被害を受けた福島、宮城、岩手の3県の震災伝承館の入場者数が累計で約100万人となった。

 19年9月にオープンした岩手県陸前高田市の東日本大震災津波伝承館(いわてTSUNAMIメモリアル)の入場者数は22年度に初めて年間20万人を超え、今年4月には開館以来の累計入場者数が70万人を超えた。また20年9月に福島県双葉町にオープンした東日本大震災・原子力災害伝承館も今年3月末までの累計入場者数が18万人を超えた。さらに21年6月オープンの宮城県仙台市の、みやぎ東日本大震災津波伝承館の入場者数も今年5月に累計10万人を突破している。

 つまり岩手、福島、宮城の3つの伝承館の累計入場者数は今年5月時点で98万人以上であることが確実で、これまでに100万人前後の入場者が3県の伝承館を訪れたことになる。

 戦争や自然災害などの悲惨な記憶をたどる旅は、世界的にダークツーリズムとして認知される分野で、日本では広島の世界遺産である原爆ドームがダークツーリズムを象徴する存在になっている。東日本大震災の記憶を伝える伝承館の訪問もダークツーリズムの1つといえるが、そこから派生したツーリズム形態が福島県が提唱するホープツーリズムだ。

 「ホープツーリズム」を商標登録する福島県観光物産交流協会によれば、ホープツーリズムとは地震・津波・原子力災害という複合災害を経験した世界で唯一の場所として、その教訓から持続可能な社会や地域づくりを探求したり創造したりするための新たなスタディーツアープログラムを意味する。ダークツーリズムとしての災害の記憶の伝承だけでなく、ホープツーリズムと名称を変えることで復興へ向かう人々の希望に寄り添う内容を強調したツーリズムということもできる。

 そのホープツーリズムが社会的な関心を引きつけつつある。16年からホープツーリズムを提唱している福島県観光物産交流協会によれば、20年度のホープツーリズムツアー販売実績は25件910人で、21年度には51件2886人となり人数が約3倍に増えた。さらに22年度には2.5倍の109件7125人まで増加している。

 東日本大震災・原子力災害伝承館を利用したコンテンツ等もホープツーリズムツアーに含めると数字はさらに大きくなる。伝承館でのガイダンスやフィールドワーク、ワークショップへのフィールドパートナー(案内人)派遣、学校・団体等へのフィールドパートナーの出張対話なども含めた場合、ホープツーリズムツアーの合計販売実績は21年度の141件9848人に対して22年度は319件1万7806人で、件数が2.3倍、人数は1.8倍となった。

 福島県観光物産交流協会では23年度のホープツーリズムツアーの実施目標として教育旅行70件、企業・団体研修25件、伝承プログラム190件、その他コンテンツ75件の計360件を掲げている。

第1原発視察ツアーも一般開放

 ホープツーリズムが増加する理由として挙げられるのが震災と原発事故の記憶を伝える関連施設の増加だ。県内では双葉町の伝承館の他にも、富岡町のとみおかアーカイブ・ミュージアム(21年7月オープン)や浪江町の震災遺構・町立請戸小学校(21年10月一般公開開始)などが整備され、ツアー企画の素材が充実したことがある。

 また主力である教育旅行においては教員の評価が高く、21年度の26件2393人が22年度には65件5367人と件数・人数とも2倍以上に伸びていることもホープツアー全体を押し上げている。復興庁などの支援で教育関係者のツアー(オンライン開催を含む)も21年10月以降に計14回実施しており、約170人が参加するなど教育界への積極的なアプローチも教育旅行の増加を促した。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年8月14日号で】

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