ようこそビジネス客 観光の領域超える外客誘致

2023.07.24 00:00

(C)iStock.com/GoodLifeStudio

これまで外客誘致は観光の観点からの取り組みがほとんどだった。しかし、政府はこのほど「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を策定し、観光目的以外の外客の獲得を強化する方針を打ち出した。ビジネス、教育、文化芸術・スポーツなどの分野で誘致が本格化する。

 なぜいま観光目的以外の外客誘致に本腰を入れるのか。最大の狙いは25年までの観光立国推進基本計画で示された、コロナ前を上回る5兆円という訪日外国人旅行消費額の早期達成だ。従来は必ずしも観光の観点からは重視されていなかった分野の施策を捉え直し、インバウンド需要をより大きく効果的に根付かせることが重要との考えに基づく。

 アクションプランでは3つの分野を柱に据え、合計78施策を打ち出した。ビジネス分野で40施策、教育・研究分野で13施策、文化芸術・スポーツ・自然分野で25施策。それぞれの分野別で新たな目標も定めた。これまで観光立国推進基本計画を受けて策定されるアクションプランは基本計画の骨子に沿った施策を落とし込む中身だったが、今回は新たな目標を盛り込み、未開拓の分野に踏み込んだ異例の内容となった。

 新目標は、ビジネス分野では、ビジネス目的の訪日外国人消費額を25年までに2割増やし8600億円に引き上げること、国際会議の開催件数で25年にアジア主要国におけるシェア3割を確保し、アジアナンバーワンの地位を不動のものとしたうえで30年までに世界5位以内に入ること、展示会・見本市への外国人参加者数を25年までに2割増の16万7000人へ増やすことの3つを掲げた。

 教育・研究分野に関しては、海外からの研究者の受け入れ数を2割増の1万6000人に引き上げ、科学技術・自然・医療・社会分野等に係る国際会議への外国人参加者数を2割増の18万6000人にすることの2つ。そして文化芸術・スポーツ・自然分野で挙げられた目標は、世界のアート市場における日本の売上額シェアを7位に引き上げ、スポーツ目的の訪日外国人旅行者数を2割増の270万人にすることの2つを掲げた。

ビジネス客誘致の鍵握る経産省

 いずれも、ほとんどがこれまで公に掲げられたことがない目標数値であることが目を引く。また3分野のいずれにも国際会議や国際見本市などMICE関連の施策が盛り込まれている点にも注目だ。

 78施策のうち半数以上の40施策が展開されるのがビジネス分野だ。その大部分を担うのが経済産業省であり、今回のアクションプランの目玉ともいえるビジネス客誘致の鍵を握る存在でもある。

 インバウンド誘致においてにわかに注目を集める形になった経産省だが、もともとインバウンド誘致や観光産業振興を重視しており、クールジャパン政策課の俣野敏道課長は「急に前に出てきた“時々来る人”ではない」とユーモア交じりに語る。インバウンドはコロナ禍前には自動車に次ぐ外貨獲得源となっており、経産省はマクロ経済の視点から最重要分野の1つと認識してきた。加えて、人口減少地域の経済政策としてインバウンドを含む観光振興は欠かせない要素であり、サービス産業全体の生産性向上の観点からも、宿泊業や飲食業など観光関連事業者の存在は大きく観光振興が必須と認識。さらには中小企業振興の観点からも観光産業の発展が欠かせないことから、経済政策の重要分野として視野に入れてきたという。

 とはいえ、これまで経産省がビジネス客数の拡大を明確に意図した政策を実施したことはない。アクションプランでも触れられている「日本の生産・研究拠点としての位置付けの復活」や「世界における国際金融センターとしての日本の地位向上」はこれまでも推進してきた政策の目標と合致するが、その先にあるビジネス客の拡大はいわば副産物であり、目標ではなかった。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年7月24日号で】

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