増便阻む空港の人手不足 抜本的改革の契機へ

2023.07.10 00:00

(C)iStock.com/wibs24

空港で働く地上職員の不足が深刻な状況に陥っている。グランドハンドリングや保安検査の要員がコロナ渦中に大幅に減少し、現在も約2割少ないままだ。インバウンドの急回復に伴う国際線の増便計画に支障を来し、人員確保が急を要する問題として浮上している。

 昨年のちょうどいま頃、英国ヒースロー空港では地上職員不足による混乱が収まらず、空港当局が1日当たりの出発旅客数を10万人に制限。航空会社に対して新規チケットの販売停止を求めるなど、人手不足が大騒動に発展していた。一方で、日本では厳格な水際対策が続き、国際線を中心に航空需要の回復が必ずしも順調でなかった。それだけにヒースロー空港の騒動には、ある種のうらやましさを感じさせる面があったのも事実だ。

 ところがその1年後、日本でも国際線を含む航空需要の急回復に伴う空港の地上職員の不足が顕在化すると、事の深刻さをあらためて認識せざるを得なくなった。パンデミック後の旅行ブームにより、人手不足があらわになったヒースロー空港に似た状況がいま、日本の各空港に押し寄せてきている。

運航再開巡り混乱

 石垣島では、コロナ禍前に乗り入れていた香港エクスプレスが夏期スケジュールから運航再開を計画していたが、空港側の受け入れ体制が整わず断念せざるを得なかった。ネックとなったのが、保安検査要員の不足だ。那覇空港も増便の打診はあるものの、積極的に応じられる状況にないという。鹿児島空港は6月5日に香港線の再開にこぎ着けたが、間際まで見通しが立たなかった。5月19日には鹿児島県の塩田康一知事が会見で、グランドハンドリングの人員不足が制約になっていることを理由に「現段階で見通しが立っていない」としていた。

 福岡空港では、地上職員の不足が理由でコロナ禍後の運航再開ができなくなるような事態には至っていない。それでも、人手不足が円滑な空港業務に支障を来しているのは確かだ。急激な利用者の増加に保安検査の要員確保が追い付かないため、国内線・国際線とも保安検査場の混雑が発生。搭乗が遅れるなどの問題が懸念される事態となり、買い物の時間が確保できないなど、旅客の利便性低下も問題となっている。

 北海道の新千歳空港も頭を悩ませている。コロナ禍前に運航便数の4割を占めた中国路線の需要が本格回復に至っていないため、問題は表面化していない。しかし、「今後、中国市場が本格回復する前に地上職の人手不足に対策を打つ必要がある。地上職員不足で運航再開に至らないこともあり得るわけで、一般論として航空便が飛べなければ、インバウンドを取り込めない事態にもつながりかねない」(北海道航空課)と危機感を募らす。

人気のなさが追い打ち

 国土交通省によれば、コロナ禍の影響により大幅に減少した国内・国際線の旅客数は、5月時点で国内線がコロナ禍前の9割程度、国際線が6割程度まで回復。その一方で空港のグランドハンドリング(グラハン)と保安検査の要員数は、グラハンで1~2割程度、保安検査で2割程度減少している。保安検査要員はコロナ禍前に約7400人だったものの、今年4月は約5700人にとどまっている。

 グラハンの内訳を見ると、ランプハンドリングと呼ばれる機体誘導や手荷物運搬など運航支援業務の要員がコロナ禍前の約1万2200人に対し1割減の約1万1000人、旅客ハンドリングが1万4100人に対し2割減の約1万1500人だ。日本航空グループと全日空グループの空港グラハン会社計22社の人員数の比較でも、20年4月を100%とした場合の今年4月の人員数は84%で約2割減となっている。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年7月10日号で】

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