どうする海外旅行 動かぬ市場を動かす知恵

2023.03.20 00:00

(C)iStock.com/RainerPuster

海外旅行を阻む大きな要因とされてきた入国時の水際規制が昨年10月に緩和されたにもかかわらず、海外旅行市場の動きが鈍い。国内旅行や訪日旅行が順調な回復を見せるなか取り残される海外旅行。新型コロナウイルスの感染症法の位置づけが5類に変更される5月以降には本格的な復活を目指せるのか。

 昨年10月11日から日本の水際規制が大幅に緩和され、海外旅行のネックとされてきた入国者総数の上限規制撤廃や、入国時検査が免除されるようになった。入国時検査の免除条件はワクチン接種証明書(3回以上)か出国前72時間以内の陰性証明書の提示だが、日本人の3回以上接種者の比率は人口の約7割と大きな障害になっているとは考えにくい。水際規制の緩和は国境を越えて往来する日本人海外旅行者や訪日外国人旅行者にとって旅行の背中を押す大きな力となったはずだ。

 実際に訪日外国人旅行者数は急回復しており、昨年10月は19年比80.0%減、11月は61.7%減、12月は45.8%減、今年1月は44.3%減と確かな足取りで復活が進んでいる。ちなみにコロナ禍で委縮していた日本人の旅行意欲も回復を遂げており、その証拠に国内における日本人延べ宿泊数は昨年10月から3カ月連続で19年実績を上回った。今年1月こそ1.1%減となったものの、ほぼ19年並みを維持している。ところが海外旅行者数だけは動きが別で、昨年10月が19年比79.0%減、11月は76.9%減、12月は74.8%減、今年1月になっても69.5%減と低空飛行が続いたままだ。

 これはある程度予測されていたことでもある。観光庁は23年度予算編成に当たり、国際観光旅客税の税収については200億円と見積もっていた。つまり日本人海外旅行者と訪日外国人旅行者を合わせて2000万人の出国を前提として予算を立てたわけだ。観光庁は23年の訪日旅行者数についても海外旅行者数についても見通しを明らかにしていないが、シンクタンクの多くは23年は訪日旅行者数が2000万人を超えると推計している。

 国際観光旅客税見込みの200億円の税収の元となる出国者数は2000万人。そのうちの訪日外国人旅行者数に関する観光庁としての予想値が、仮に各シンクタンクと大きな差がなかったとすれば、出国者数のかなりの部分を訪日外国人旅行者が占めると考えていたことになる。海外旅行者数の見積もりは決して多くなかった可能性がある。

 JATA(日本旅行業協会)は昨年10月の水際規制の緩和以降も海外旅行の需要回復がはかばかしくない状況に危機感を募らせる。1月10日に会見した髙橋広行会長は、「金額に左右されない富裕層さえも動いていない」と述べ、円安や旅行費用の高騰など外的要因だけでない課題の存在を示唆した。さらに「海外旅行の復活なくして旅行業界の復活はない」と主張し、23年の最重要課題に海外旅行の復活を取り上げ、各種取り組みを強化する方針を打ち出し、新たなプロモーションも予定している。

 海外旅行市場の回復は期待通りには進んでいないのが現実だが、旅行各社は今年こそは何としても海外旅行の需要回復を図らなければならない。それに向けた動きも出始めている。

 JTBは23年の旅行動向見通しで、海外旅行者数が19年比で4割程度に相当する840万人になると推計している。その前提のもと6月以降の海外旅行商品についてはダイナミックパッケージ商品だけでなく代金固定型の個人旅行も設定し、全方位で海外旅行需要獲得に臨む積極策を展開。商品発売翌日の2月4日にはテレビCMも開始した。

 エイチ・アイ・エス(HIS)も海外旅行商品のラインナップを19年に近い水準まで取りそろえ、23年上期(4~9月)は海外旅行取扱額を19年比で6割まで回復させたい考え。それに基づき海外旅行喚起イベントとして2月には都内で一般消費者に向けて海外旅行大感謝祭を開催した。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年3月20日号で】

関連キーワード