旅行支援策への提言 なぜ混乱は繰り返されるのか

2023.02.06 00:00

(C)iStock.com/Nazarevich

GoToトラベルの停止後、2年を経てようやく昨年秋から全国旅行支援がスタートした。しかし、観光・旅行事業者の混乱は繰り返され、事業者の中からも業界支援策として逆効果といった声まで出ている。より良き旅行支援策のあり方とは……。

 GoToトラベルは新型コロナ感染拡大の第3波を受けて20年12月末に事業を停止したが、7月下旬から約5カ月間の取り組みを通じて旅行需要の喚起に一定の成果があったとされている。GoToトラベルは制度内容の発表から実施までの準備期間が短かったことや事務局の対応などに不満を募らせる事業者は少なくなかったものの旅行需要の回復は共通の悲願であり最優先事項だった。それだけにコロナ禍ですべてを失った観光・旅行業界はGoToトラベル停止後もその再開を期待した。

 結果的にGoToトラベルは看板を「全国旅行支援」に掛け替え、事業停止から約2年後の22年10月11日に新たな支援策として復活した。年末年始の繁忙期間の中断を挟み、今年も1月10日から全国旅行支援が再開している。

 旅行支援策の早期再開については観光・旅行関連業界も要望してきた。21年には日本観光振興協会がGoToトラベル再開の要望書を斉藤鉄夫国土交通相や岸田文雄首相に提出したほか、JATA(日本旅行業協会)や全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部も同様の働きかけを行っている。観光産業の復活を後押しする経団連もGoToトラベルの制度を一部見直したうえでの再開を政府に提言。その意味では全国旅行支援の実施は観光・旅行業界を含む産業界の総意で、基本的には歓迎すべきものだったはずだ。

 ところが昨年秋からスタートした全国旅行支援も、年明け後に再開した支援も観光・旅行業界からの評判が必ずしも良くない。GoToトラベル実施時にも旅行や宿泊の事業者に課される事務手続きの煩雑さや業務負荷の大きさが悪評だったが、需要回復のため背に腹は代えられないとの判断もあった。しかし同種の支援事業が再開するにあたっては改善への期待もあった。

 ところが全国的な展開が難しいと判断した国が、最初は県民割の形で自治体ごとの実施を先行させ、これを地域ブロックに対象を拡大、さらに全国展開としての全国旅行支援の実施という段取りを踏んだ結果、自治体によって利用条件や手続きが異なるなど制度が複雑化。結果的に業務負荷が増大し改善への期待は崩れた。

 全国紙には地方公務員が投稿したコメントが掲載された。内容は、都道府県が実施主体になったことで予算が分割され一体的に執行できないうえ、旅行事業者は47都道府県それぞれのルールを理解しなければならなくなったと指摘するもの。事業者の負荷増大は、自治体側から心配されるほどであることを示す投稿だ。

 観光庁の和田浩一長官は、全国旅行支援開始後の昨年10月の会見でこの点を問われ、「制度の骨格は国が一律に定めたうえで、具体的な運用は事業主体である都道府県において、地域の需要動向、感染状況に応じて柔軟に対応できる仕組みとしている」と説明。現場で生じている混乱に関しては「いろいろな課題が生じているわけだから、都道府県としっかり連携して、利用者の方々に円滑に利用いただけるよう、さまざまな告知をするなどの取り組みを進めている」との回答にとどめた。

 旅行や宿泊事業者の不満は疑問が積み重なった結果ともいえる。そもそも全国旅行支援がなくても旅行需要が回復したのではないかという疑問がその1つ。観光庁の宿泊旅行統計調査によれば全国旅行支援開始前の状況が反映される22年9月の日本人延べ宿泊数は回復傾向が顕著だった。前年同月比7割増で19年同月と比べ95.3%まで回復が進み、コロナ禍前の需要レベルを取り戻しつつあった。旅行事業者の中には「すでに需要回復が軌道に乗りつつあった段階での全国旅行支援は業務負荷が増すマイナス面だけが残った」と受け止める向きもある。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年2月6日号で】

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