もう一度

2023.02.06 08:00

 再ブレイク。かつて話題になったり流行したりした人物や事象が再度脚光を浴びることは、古今東西さまざまな分野でみられる。音楽シーンに着目すると、1998年に発売されたPUFFYの「愛のしるし」がTikTokのダンス動画で、2004年リリースのnobadyknows+「ココロオドル」は自らが出演したYouTube動画をきっかけに、それぞれ昨年見事に再ブレイクを果たした。筆者が社会人駆け出しだった20年近く前の時代の流行が、その時は存在していなかった新たなメディアというレンズを通じてまたも社会を席巻するこうした現象には、驚かされるとともに深く心に感じ入るものがある。

 他方、オールドメディアで発信された内容がSNSのトレンド入りしたことで再ブレイクしたとされる人物もいる。芸人のなかやまきんに君だ。きっかけとなったのは彼が一日警察署長を務めたことを伝えるNHK九州ローカルのニュース番組だ。報道のネタとしてはお世辞にもバリューは高くない。お約束のスベり芸で締めくくられた取材VTRは短尺であっさり終了。その後、画面はスタジオに戻った。キャスターはさっさと次へ進行すればよいはず。しかし、隆々の腕っぷしを見せつけて彼が「パワー!」と叫んでいた様子を別のニュース読みの最中にアナウンサーが思い出し笑いしてしまう。シリアスなニュースであれば大変な目に遭っただろうが、笑いが止まらなくなるハプニングを多くの人がほぼ笑ましく受け取ったことでポジティブな話題として盛り上がった。

 さらに放送事故ともいえるその様子を自局の全国ニュースで後日取り上げていた。最近のNHKはよくわかっているなと思う。恩人と称える当該アナウンサーときんに君は「夢の共演」を果たした。「プロとしてあるまじき姿。ニュースをお伝えするのが仕事なのに。きんに君の笑わせようとするプロフェッショナリズムに負けてしまって、思わず笑ってしまいました」。話のプロが笑いのプロに負けたとの弁。とはいえ、相手をうまく立てたコメントでクロージングさせたのだからなかなかのものだ。

 プロには対象へ趣味として接近するのでなく、専門職業人として高い意識を伴った行為が求められる。先のエピソードからもそのような定義付けが示唆されよう。さて、旅のプロとは何だろう。ウェブサイトを概観すると旅のプロと称する団体や個人は案外多く散見される。プロへ尋ねるアンケートとする企画の対象を旅行業者社員とするものもあれば、旅行経験の豊富さをもって妥当性を確立するユーチューバーも存在していた。

 ひと昔前は前者がプロとされた。ただ、情報を収集したり発信したりすることがいまは誰にでもできるようになった。独占的に情報を保有することで利益を確保していた企業が、技術革新に基づく競争の激化ともいえる民主化が進む状況下、自然法則のまま苦しみ続けることで後者に後塵を拝しつつある。取捨選択のセンスや発信のスキルで上回る情報の取り扱いに長けた新時代のプロを抱き込むことでしか勝負できないフィールドすらみられる。昔のプロはこのまま落ちるところまで落ちていきやしないか。

 これからは何に対するプロフェッショナルを発揮する組織かをあらためて喧伝する必要があるだろう。次の時代のプロ像を早く構築せねばならない。そのために学びは必須だ。はやり言葉の好きな業界だから、スタッフへのリスキリングを本気で定着させてもらいたい。学んでこなかった人が少なくないのに「re-」とはおかしな話だが、次の時代のプロ像とその姿を実現するのに必要なスキルの定義だけでも整えてほしい。もう一度社会に必要としてもらうために。

神田達哉●サービス連合情報総研業務執行理事・事務局長。同志社大学卒業後、旅行会社で法人営業や企画・販売促進業務に従事。企業内労組専従役員を経て現職。日本国際観光学会理事。北海道大学大学院博士後期課程。近著に『ケースで読み解くデジタル変革時代のツーリズム』(共著、ミネルヴァ書房)。

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