神のお導き

2023.01.02 08:00

 新年を迎えた。実務家の読者諸兄姉は22年をどう振り返るだろう。経営側は特需の恩恵に思わずホクホクといったところだろうか。他方、顧客対応を担った現場の従業員たちはヘトヘト? いや、その程度の心理状態では到底収まることなく、イライラ?ムシャクシャ? 支援という名の付与されたそんな大嵐は、どうやら越年してもなお居座るのだという。見切り発車で混乱を招き、挙げ句の果てに「税金泥棒」を暗躍させたかのGoToトラベル。その反省とそれからの進化に対する期待は、残念ながら完全に裏切られる結果となってしまった。

 無道と言っても過言ではない、自らの都合を優先する主体たちが抱く思惑やそれに基づいた差配たるものへ接近すればするほど、失望や落胆といった言葉ぐらいでしか形容は不可能に思われて情けなさは募る一方だ。パンデミックたる強烈なハリケーンが残した影響の強さにはあらためて畏怖の念を覚える。一方、あらゆるものが吹き飛ばされた更地を耕し始めるそぶりを見せる主体に見え隠れするさもしさ。そこから感じ取れるのは、気持ち悪さを通り越したこれまでには未経験のレベルの違和感しかない。

 筆者はそんな嵐吹きすさぶ22年も残りあと数十日という折に、出張先のホテルで本稿を執筆している。ワクチン接種証明の提示にregionPAYの不明点解消といった、先客たちがカウンターで繰り広げる長いインタラクションのおかげで今日もフロントまでの道は遠い。

 先頃、年末の風物詩ともいえるイベントがあった。新語・流行語大賞の発表である。年間大賞に選出されたのは「村神様」。虎党の筆者には、シーズンを通してその勝負強さにひれ伏すことを余儀なくさせられた「邪神」ともいえる存在だ。シーズンオフに入ってからもそのプレイを称える数々の賞を総なめにした様子を見せつけられ、挙げ句は先述の恒例行事でも頂点に立つこととなった神のご尊顔を拝さねばならない事態にはじくじたる思いがある。

 他にトップテンとして選出された「きつねダンス」、ノミネート段階でも「令和の怪物」「BIGBOSS」「大谷ルール」など野球に関連する用語が今年も潤沢だった。こうした野球偏重説すら毎年指摘される風物詩とあり、某歌合戦含め年の瀬というのはそのようなさまざまなお約束の確認作業と不可分な時節かもしれない。

 実務の界隈でよく聞かれた新語・流行語といえば、ウエルビーイング、リスキリングといったところだろうか。前者は健康経営、後者はリカレント教育や学び直し、さらにさかのぼれば生涯学習と称されていた言い回しの流れをくむ。ただ、例えば経済産業省の資料を概観すれば、従業員の学びにかかわる4つの言葉に差異の存在することは自明だ。しかし、それら自体やそれぞれの違いを説明することのできる実務家にはなかなかお目にかかれない。どうにもはやり言葉の目新しさやわかりやすさを追従することはあっても、その中身についての関心は乏しく思われる。

 出張は宿泊業労使幹部を対象とした講演だった。意見交換の折に異口同音に発せられるのは、ウエルビーイングの実現やリスキリングの補助拡大といったフレーズ。ただ、言葉の真意の追求に及ばず、なぜそれらを必要とするのかという根拠が帰納的で、背景に存在するはずの思想を垣間見ることは困難だった。学術の世界に片足の指先を突っ込む立場として、真理の追究や学びの尊さも壇上で訴えた。ツーリズムにおける旧来のヒエラルキーはすっかり影を潜めたいま、かつてのサプライヤーにはポセイドンとして産業をけん引する力強さを新年に期待したい。

神田達哉●サービス連合情報総研業務執行理事・事務局長。同志社大学卒業後、旅行会社で法人営業や企画・販売促進業務に従事。企業内労組専従役員を経て現職。日本国際観光学会理事。北海道大学大学院博士後期課程。近著に『ケースで読み解くデジタル変革時代のツーリズム』(共著、ミネルヴァ書房)。

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