いま共有したい1冊 観光の時代復活に向けて

2022.10.31 00:00

(C)iStock.com/PeopleImages

水際対策緩和に全国旅行支援と、観光の時代復活への期待がふくらんでいる。一方でコロナ禍により変化した人々の価値観や社会環境がもたらす観光ビジネスへの影響は見えづらい。そんな時代のうねりをとらえながらキーパーソンがいま共有したいと思う1冊は、私たちに何を示してくれるのだろうか。

『イノベーションの再現性を高める新規事業開発マネジメント』 北嶋貴朗著(日本経済新聞出版)

 20年6月30日、当社は設立40年目に民事再生手続きの決定を受けた。旅行会社では恐らく初めての民事再生の開始となった。振り返ると、学生時代にスキーツアーで創業、旅行会社として起業したものの旅行業の収益の低さに悩み、既存旅行業からいかに脱却するか、いかに新しいビジネスモデルを作るか、どんな新規事業を育てるかに明け暮れた日々だった。

 新規事業の1つとして始めたホテル事業はスタートから好調で、訪日外国人急増というトレンドの中で急成長し、全国で38軒を運営するホテルチェーンに拡大した。急成長するビジネスは危ういといわれるが、新規事業の取り組み方の失敗だったともいえる。しかし、ホテル事業という旅行業とは異なる事業を立ち上げたからこそ、旅行事業を残すことができたことも事実だ。

 これらの経験を踏まえ、私が共有したい本書は新規事業開発の全体像を俯瞰的に見て、いかに取り組むべきかという点において、大変示唆に富んだ内容となっている。

 新規事業開発がうまくいかない理由の第一はビジョンや新規事業に関する方針がないことだという。コロナで売り上げが蒸発し、儲けはなくなり、のどから手が出るほど利益が欲しかったわれわれにはハッとさせられる原点である。いま、儲からないから新規事業を探そうという発想は短絡的すぎるのだろう。その事業が一過性ではなく構造的に存在・発展を続けられるかどうかだと本書は指摘している。

 すでに旅行会社従来のビジネスモデルはお客さまに響かなくなった。大なり小なり新規事業開発は避けて通れない状況である。ただ、大きなトレンドから見れば観光業の未来は明るい。コロナ禍が収束しつつある過程にあって、本書は旅行業経営者がいままでの経験を生かした新規事業を模索しながら10年先のあるべき姿について考えるきっかけになると思う。

 民事再生が終結していちからのスタートとなったが、当社の最重要課題はやはり、様変わりしたマーケットで成長できる新規事業の開発、新規ビジネスモデルを作り育てることだ。その点において旅行・観光のフィールドは最適の環境である。観光業の幅広さ、旅行業の情報力、情報を生かす多種多様なIT力…等々、旅行業には新規事業に結びつく計り知れない潜在力がある。今回、本書をあらためてひも解くことで、当社の再スタートを見つめ直すきっかけとなったことに感謝したい。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年10月31日号で】

近藤康生●ホワイト・ベアーファミリー代表取締役。学生スキーツアーから旅行会社として起業。いち早くウェブ販売に特化する。04年からホテル事業に参入、沖縄瀬長島の開発も実現。グループはコロナ禍最大の倒産となったが21年に弁済を終結して22年社長に復職。

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