クルーズに立ちはだかる壁 かつての成長取り戻せ

2022.10.24 00:00

(C)iStock.com/Olga_Anourina

水際対策が緩和され、旅行業界にようやく光明が見えてきたなか、唯一取り残されているのがクルーズ旅行だ。政府はすべての港での国際線再開を明言し、一歩前進した。だが、実現にはまだ壁が立ちはだかる。再開が遅れれば、客船会社の日本離れや消費者のクルーズ離れが加速する懸念もある。

 20年2月に横浜港に到着したダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルスの大規模クラスターが発生し、3月末には世界中でクルーズが止まった。あれから2年半にわたり、日本での国際クルーズは停止したままだ。この間、クルーズが盛んな欧州や北米では運航が再開され、コロナ禍前の活況を取り戻し始めている。ところが日本では、国内クルーズこそ20年11月に再開したものの、海外と結ぶ国際クルーズに関しては年内の本格再開は絶望視されている。

 もちろん、関係当局や業界側は状況打開に取り組んできた。国土交通省はクルーズ再開の前提条件となるクルーズ船の利用者や客船が寄港する港湾等の安心・安全の確保に向け、有識者ワーキンググループで国際ルールのあり方を含む対策の検討を進め、20年9月に中間とりまとめを発表。これと同時に、海事局監修の下、日本外航客船協会(JOPA)が感染予防対策に関するガイドラインを策定し、11月の日本船による国内クルーズ再開につなげた。

 また、国際クルーズの早期再開を推し進めようと、外国船社の日本法人をはじめ関係者が日本国際クルーズ協議会(JICC)を21年4月に設立。関係省庁との協議など活動を行ってきた。ところが、いまだに国際クルーズ復活に至っていないのが実態だ。

販売と中止の繰り返し

 JICCは国際クルーズの再開時期について22年を目標としていた。また各船会社も規制緩和に望みを託し、今夏の日本発着クルーズの配船計画を立てていた。

 最も積極的だったMSCクルーズは、7月中旬から自主クルーズを開始して8月以降は旅行会社のチャータークルーズを設定するスケジュールで動いてきた。チャーターの一例では、クルーズプラネット、エイチ・アイ・エス(HIS)、ベストワンドットコムの3社が合同で横浜発台湾寄港クルーズを企画。阪急交通社も通販番組のショップチャンネルと組んで釜山寄港の日本1周クルーズを設定し、ジャパネットは9~10月にわたり釜山クルーズを計画していた。このほか日本船では、商船三井客船がにっぽん丸で7月に済州島クルーズを予定していた。

 ただ、世界的に見て厳しすぎるとされる日本の水際対策をクリアするのが難しく、結果的にこれらの国際クルーズはすべて運航中止となった。多ければ数千人単位の乗下船がある国内寄港地での検疫体制が追い付かないことが理由の1つで、水際対策の壁を象徴する事態ともいえる。水際対策が大幅に緩和された10月11日より前は1日当たりの入国者数上限が定められていたこと、韓国など寄港先がクルーズ船の受け入れ再開に至っていないことも一因だ。

 関係者は運航中止に肩を落とした。というのも販売は順調に進んでいたからだ。例えば阪急交通社は販売目標の1000室を完売し、大きな手応えを得ていた。もっとも、落胆の理由は直接的な売り逃しだけが理由ではない。むしろ影響がより大きいのはクルーズそのものに対する諦め感が市場に広がることだ。クルーズプラネットでは、20年のゴールデンウイークに予定していたチャータークルーズを中止し、乗船予定だった顧客に翌年のクルーズに振り替える代案を提示したが、これも中止となった。さらに21年分を振り替えた22年のゴールデンウイークも中止となり、今夏の代替案も中止。すでに3回も振り替えに応じた顧客もいる。しかし、応じてもらえる割合は回を追うごとに少なくなっているのが実態で、顧客のクルーズ離れさえ懸念される状況だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年10月24日号で】

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