どうする自主財源 法定外税か受益者負担金か

2022.09.12 00:00

(C)iStock.com/AlexSecret

地域が観光客の誘致や受け入れ環境整備を進めるうえで頭を悩ませるのが財源だ。自主財源を確保するため、法定外税として宿泊税を導入する自治体が増える一方で、一時断念する自治体も少なくない。欧米で成果を上げる受益者負担金の日本版も期待されるが、導入には時間を要しそうだ。

 観光関連施策を進めるための自主財源として法定外税が注目されることになったのは00年4月施行の改正地方税法だった。この改正により、都道府県や市町村といった自治体の考えに基づいて法定外税を新設できることになったからだ。税目や課税対象、税率等も自治体が設定でき、総務省との事前協議で「負担が過重ではない」などの同意要件を満たすと見なされれば、総務大臣が法定外税の新設を認める。

 改正地方税法の施行から2年後、法定外目的税として宿泊税を初めて導入したのは東京都だった。しかし、客離れにつながりかねない宿泊税の導入には宿泊事業者を中心に反対も根強く、「出張者を含め旅行者が訪れざるを得ない首都だからできること」と考える各自治体が続くことはなかった。

 その後、2例目として大阪府が税徴収を開始したのは17年のこと。東京都から大阪府までの15年間に観光産業を取り巻く状況が様変わりしたことが背中を押した。つまり国の観光立国政策が成果を上げ、訪日外国人旅行者が急増したため、受け入れ環境整備を急ぐ必要性が生じ、財源としての宿泊税があらためて注目されたわけだ。

 大阪府の導入以降は新たに宿泊税を設ける自治体が増えた。18年には京都市、19年には金沢市と倶知安町、20年には福岡県、福岡市、北九州市がそれぞれ宿泊税を導入した。このほか同じ法定外目的税では、沖縄県の座間味村が旅客船や航空機で座間味島を訪れる者を徴収対象とする「美ら島税」を18年に導入した例などがある。

 宿泊税導入の目的は、東京都が「国際都市東京の魅力向上」であるとし、大阪府も「世界有数の国際都市への発展のため」と説明。京都市は「国際文化観光都市としての魅力向上」を挙げており、いずれも世界を意識した観光振興を目指している。その意味では、「世界に誇れるリゾート地としての発展」を目的に掲げる倶知安町も同じ方向性だ。

 また、金沢市は「金沢の歴史、伝統、文化など固有の魅力を高める」こと、福岡市は「九州のゲートウェイ都市の機能強化」と「大型MICE等の集客拡大への対応」等を目的としており、比較的、具体的な目的を挙げているケースとなる。

 一方で福岡県は、「観光資源の魅力向上、旅行者の受け入れ環境の充実とその他の観光振興」と幅広い目標設定で、北九州市も「観光資源の魅力向上および情報発信や受け入れ環境の充実その他の観光振興」と幅を持たせている。

長崎や廿日市で導入決定

 法定外税の導入を決定し現在準備を進めているのが、法定外目的税としての宿泊税を導入することにした長崎市と、法定外普通税としての宮島訪問税を導入することにした廿日市市だ。

 長崎市は今年3月、市議会において長崎市宿泊税条例を可決。総務大臣との事前協議を経て6月24日に大臣の同意を得られたため、23年4月1日からの導入を決めた。現在は宿泊税徴収を目的とする補助金事業を行い宿泊施設のシステム改修や新規導入を進めているほか、事前説明会等の開催による周知・広報活動を実施している。

 長崎市は現在40万人を超えている人口が減少傾向にあり、25年には30万人台まで減る見通しで、40年度には現在より4万以上も少なくなる可能性がある。これに伴い生産年齢人口や就業人口も減少。個人市民税額は25年度には20年度より7億円近く減るとみられる。このため、昭和の観光都市から21世紀の交流都市へのレベルアップを目指すための財源の一部として宿泊税に期待する。税額は宿泊料金に合わせて100円、200円、500円の3段階に分かれ、修学旅行等は非課税。初年度は約4億円の税収を見込んでいる。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年9月12日号で】

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