観光地の面的再生なるか 施設改修・廃屋撤去支援事業の行方

2022.09.05 00:00

(C)iStock.com/powerofforever

政府が1000億円以上の予算を投入する肝いり施策が「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」だ。廃屋化した観光関連施設の撤去や大規模改修などを支援し、観光地の再生を促すことを狙う。果たして観光地は変わることができるのか。

 観光庁は3月18日に地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業の公募を開始した。同日の記者会見で観光庁の和田浩一長官はこの事業を「いわば目玉政策」と紹介。同事業によって「ポストコロナを見据え、魅力ある観光地域づくりを進め、交流人口の拡大を図っていく必要がある」と説明した。

 長官自ら目玉政策と紹介するだけあって、費やす予算規模も支援の仕組みも、地域側にとっては心強い内容だ。21年度経済対策関係予算として用意された事業予算額は1000億2800万円。20年度第3次補正予算化された「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」も549億円の予算を投じて進められているが、同じような趣旨と目的で実施する今回の観光地の再生支援事業には2倍近い予算が投じられる。

 地域に対する支援の中身も拡充され、再生のための地域計画づくりの段階から、ブランディングの専門家や経営コンサルタント、観光アドバイザー、建設コンサルタントらで構成する支援チームが伴走支援する体制を用意した。

 さらに既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業では補助上限が2000万円、補助率は2分の1までとされていたが、今回の再生支援事業は補助上限が1億円に引き上げられた。これによって宿泊施設の高付加価値化改修や観光地魅力向上のための廃屋撤去は1億円まで、土産物店や飲食店等といった観光施設改修は500万円まで、公的施設にカフェを併設するなどの公的施設の観光目的での利活用のための民間活力の導入は2000万円まで補助を受けられる。補助率は基本的に2分の1までだが、宿泊施設の高付加価値化改修は、経営体力・投資余力について一定の条件を満たした場合は補助率を3分の2までに引き上げた。

 事業は3つのタイプに分かれる。地域一体型は候補地域を採択するもので、自治体やDMO、計画対象地域にある複数の民間事業者・団体(原則5者以上)などが申請者となる。国立公園型は国立公園の滞在環境を上質化できる事業者を採択するもので、民間企業や個人事業主、各種団体や組合、観光推進機構等が申請者となる。交通連携型は交通を軸とした観光地への誘客促進や付加価値向上を図るための計画を公募するのが目的で、申請者は観光分野に関係する交通事業者だ。

 観光庁は3月18日に同庁が担当する地域一体型の対象となる支援策の公募を開始、公募した地域には順次伴走支援チームを派遣。観光地再生のための地域計画づくりを進め、6月8日には計画づくりが先行した地域を対象とする第1回地域計画審査結果に基づき、8地域の採択が発表された。7月15日には第2回地域計画審査結果として52地域の採択が、8月3日には追加採択の1地域がそれぞれ発表され、合わせて61地域が支援を受けることになった。

 環境省担当の国立公園型、国土交通省担当の交通連携型とも4月に開始した公募を終了しており、国立公園型は有識者会議で選定された9つの国立公園の20事業者が6月26日に発表されている。

ユニバーサルデザイン対応を進化

 地域一体型で最初に採択された8地域は、いずれも方向性の異なる地域計画をまとめ上げた。例えば、山形県天童市はユニバーサルデザイン(UD)をテーマに掲げ、DMC天童温泉と共に天童温泉の高付加価値化に取り組む計画だ。UDは民間施設や公共施設が施設単位で導入するのが一般的だが、天童温泉ではエリア全体で取り組む点が特徴で、宿泊施設や観光施設、交通事業者など25事業者が参加する。この中には旅館や観光施設、バス会社など観光関連事業者が含まれる。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年9月5日号で】

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