立ち上がるホームエージェント 普及するか新たな旅行業モデル

2022.08.29 00:00

(C)iStock.com/mathisworks

米国で一定の地位を確立しているホームエージェントを参考に、日本でもホームエージェント型旅行業者代理業の普及を目指す動きがある。人材の活用・確保という目的と新たな働き方の両ニーズを満たす新たなスタイルとして、期待が高まる。

 米国の旅行業界は大多数を占めるパパママエージェントと少数の大企業とで構成されている。統一基準に基づく全州共通の登録制度がない米国では、旅行業者数の正確な把握は難しく、統計により8万~22万と差が大きい。しかし、米国旅行業協会(ASTA)の加盟会社概要によれば、売上高100万ドル以下の旅行業者が45%を占め、従業員なしが33%とされており、パパママエージェントが多数を占めていることがうかがえる。自宅を事業拠点とするケースも約4割を占める。つまり、小規模かつ家族経営のいわゆるホームエージェントが大きな存在感を示していることは間違いない。

 米国と日本とでは旅行ビジネスに関する法制度も規制内容も異なるものの、米国で一般化しているホームエージェント型の旅行業のあり方を日本にも生かせないか、検討されていた。JATA(日本旅行業協会)の旅行業流通研究ワーキンググループが検討していたもので、今年3月にまとめられた報告書では、「ホームエージェント型旅行業者代理業者による旅行業OB・OGの活用をはかる」と結論づけている。これはその後、JATA旅行業再生戦略会議が6月にとりまとめた提言の中で、人財確保・育成・活用の分野の対応策に盛り込まれた。

推進する3つの理由

 ホームエージェントが注目される大きな理由は3つある。第1の理由は、高齢者雇用という社会的要請だ。政府は人生100年時代の到来を見据え、全世代型社会保障改革に取り組む。その一環として、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が昨年4月に施行された。この努力義務を果たすには、定年年齢の引き上げや定年制の廃止など何らかの対策を講じる必要がある。努力義務が義務に変わる前に体制を整えておくことも重要だ。ただし、単純に高齢者との雇用関係を続けるのは賃金や社会保険などを含め会社の負担が大きい。そのため、ホームエージェントが高齢者雇用の現実的な対応策の1つになり得るとして期待されているわけだ。

 第2の理由はコロナ禍等で旅行業界を去った人材を補う効果があるとの期待だ。旅行業界のOBやOGが業界で培った人脈や知識、ノウハウ、コンサルティング力は価値ある資産だが、ひとたび業界を離れた人材が再び旅行会社の社員として業界に復帰するかどうかは極めて疑わしい。しかし自らの能力と努力、裁量次第で、会社員とは違った未来を切り開けるホームエージェントならば、カムバックする可能性が高まる。定年やコロナ禍だけでなく、妊娠・出産、育児、介護等で離職した人材の確保につながるのもポイントだ。

 第3の理由は、働き方改革やワークライフバランスといった社会の動向に即した仕事のあり方に合致するからだ。ホームエージェントはその名のとおり、自宅で業務することによって自分自身の適正なワークライフバランスを取りながらマイペースで就業し、ある程度の収入を得られるメリットがある。

 ホームエージェント型旅行業者代理業の普及を図るため、旅行業登録区分を見直す方法も考え得るが、JATAは現行の旅行業者代理業者の範囲内で普及を目指す。登録にかかる手続きや費用などから参入の敷居が高いというイメージがあるが、個人が自宅で営む場合は自宅住所での登録が認められている。また、ワーキンググループが実際の登録申請手続きを精査した結果、記載や用意に時間を要するものはなく、決して準備が難しいものではないことを確認済み。登録手数料は都道府県で異なるが、ほとんどが1万5000円程度で済むという。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年8月29日号で】

【あわせて読みたい】ホームエージェント型代理業を提唱 JATA、OB人材活用と就業機会確保の一手に 在宅エージェントの可能性 コロナで浮上する新たな働き方

関連キーワード