ワクチンパスポート 観光回復への出口戦略
2021.08.30 00:00
新型コロナウイルスワクチンの接種完了を条件に入国制限を緩和する動きが世界的に広がっている。日本でも、まずは海外渡航者向けに接種記録の公的証明となる、いわゆるワクチンパスポートの交付が始まった。感染拡大を防ぎつつ社会経済活動を回復に導くための出口戦略として期待が高まる。
フランスで8月9日から、新たに飲食店の入店時にワクチンパスポートの提示が義務化された。提示しない客や確認を怠った店には罰則が適用される厳しい措置だ。逆に、そうした措置が取れるほどにワクチン接種が進んでいる証しでもある。
欧州各国をはじめ、ワクチン接種が進んでいる国や地域を中心にワクチンパスポートの実用化の動きが始まっている。欧州では、欧州連合(EU)加盟27カ国で共通の運用が始まっているほか、加盟各国はワクチンパスポートを条件に独自の入国制限緩和策を実施。EU圏外の英国もワクチンパスポートを保有する旅行者の入国手続き緩和を進めている。
ワクチン接種に関する是非が割れる米国は、連邦政府としては導入に慎重だが、ニューヨーク州が独自に導入し、ハワイ州は米国内旅客の受け入れに際してワクチンパスポートを条件に州の検疫要件を免除している。
翻って日本はワクチン接種が進んだこともあり、7月26日から海外渡航者向けに申請受け付けが全国の市区町村で始まった。
ワクチンパスポートは基本的にワクチン接種の完了を公的に証明する証明書だ。発行主体や発行する国によって正式名称は異なり、たとえばEUは「EUデジタルCOVID証明書」で、日本は「ワクチン接種証明書」。ワクチンパスポートとは、それら証明書の総称といえる。またワクチン接種証明だけでなく、PCR検査の陰性証明や旅券内容も含めた情報を搭載したものをヘルスパスポートと総称することもあり、代表的なものとしてはIATA(国際航空運送協会)が運営する「トラベルパス」が挙げられる。しかし、ワクチンパスポートとヘルスパスポートの名称が厳密に定義付けされているわけではなく、一般的には比較的認知度の高いワクチンパスポートの名称を使うことが多い。
欧州からアジアにも活用拡大
利用は日を追うごとに拡大している。フランスのように国内の経済活動再開のために利用する国は多い。イタリアやデンマークも飲食店等を利用する際の条件にワクチンパスポートの提示を挙げており、6~7月に英国などで開催されたサッカー欧州選手権やテニスのウィンブルドン選手権といった大型イベントでは、ワクチンパスポートが観客入場の条件となった。
国境をまたぐ移動についてもワクチンパスポートの活用が始まっている。EUは7月1日から、EU発行のワクチンパスポートがあれば原則として隔離も検査も不要な自由な域内移動を認めている。日本人旅行者が関係する動きとしては、EUが6月上旬、観光など不要不急の渡航を認める国・地域に日本を加えたことで、一部加盟国がワクチンパスポートの提示で日本人入国者の自主隔離を免除した。
アジアでは、タイがワクチン接種済み外国人観光客を対象に隔離を免除する観光復興プログラム「プーケット・サンドボックス」がある。タイ保健省が定める新型コロナウイルスの低・中リスクの国、67カ国を対象にしたもので日本も含まれる。主な条件はワクチンパスポート(ワクチン接種完了を証明する書類)やPCR検査の英文陰性証明書、渡航前の入国許可申請、タイ政府の安全基準を満たした宿泊施設の予約など。プログラム対象者は隔離措置なしにプーケット県内を自由に旅行できる。サムイ島でも同様のプログラムを開始しており、1週間のホテル滞在が必要となるが4日目からはホテル外に出ることができる。
タイ国政府観光庁(TAT)によれば、7月1日に開始したプーケット・サンドボックスを利用した7~9月の宿泊予約数は7月28日時点で延べ29万2832泊。7月は予約全体の65%に相当する19万2875泊がこのプログラムの利用者で、プーケットの観光復活を強力に後押ししていることがわかる。
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