二重価格は是か非か 広がる内外格差と外国人料金

2023.11.27 00:00

(C)iStock.com/Freer Law

訪日旅行誘致の最大のネックが物価高とされたのは10年前の昔話。いまでは格安の国ニッポンはバジェットトラベラーの天国になりつつある。止まらない円安と低迷する経済は世界と日本の格差を広げるばかりだ。そこで浮上するのは外国人と居住者での差別化価格というアイデア。果たして二重価格は是か非か。

 かつて日本経済華やかなりしころ、海外旅行に出かければ目にする物品やサービスのすべてが安く思えたものだ。日本経済の発展に伴い景気が良かった時代はもちろん、バブル崩壊後にも円高に助けられて日本人は海外で物価安を感じることができた。何しろ約10年前の10年代初めには1ドル80円などという時期があり、円は現在の2倍近い価値を持つ最強通貨だった。

 それもあって海外旅行先によっては日本人価格なるものがあり、日本人旅行者は高い価格や料金を取られたものだ。飲食店には日本語で書かれた割高メニューと、現地語による通常メニューがあらかじめ用意されているケースもあった。現地の居住者と外国人観光客を区別して、お金のある旅行者からは利益もたくさん頂こうという二重価格だ。決して良い気持ちはしなかったものの、それでも安く感じた日本人は少なくなかったのではないか。「まあ、いいか」と二重価格を受け入れたのは懐具合の余裕の表れだったのかもしれない。

 それから10年。事情は180度変化した。為替レートは1ドル150円以上が常態化し、そもそも20年以上もデフレが続いた日本の物価は海外から見れば物もサービスも格安状態だ。各国首都のホテル料金を比較すると、コロナ禍の沈静化とともに日本でも料金が急上昇しているものの、欧米の同クラスホテルとは2倍近い開きがあるという報告もある。

 ハワイを訪れた日本人旅行者が「ラーメン1杯2500円」に驚き、反対に訪日外国人旅行者は日本のラーメンの安さとクオリティーの高さに感激する。世界共通の物価指数として認知される英国エコノミスト誌のビッグマック指数最新版によれば日本は価格が高い順に上から数えて44位と、同じアジアの韓国、中国、タイより下位。日本で450円(店舗により差あり)で販売されるビッグマック1個の値段が、米国では5.58ドル(約780円)。1.7倍以上の値段だ。各国からの旅行者が日本を安い国と感じるのも無理はない。

 こうなるとお金持ちの外国人旅行者と、そうではない当の日本に居住する者とで、交通機関や観光施設の料金を二重価格にすることがむしろ健全だとする考えが出てくるのも当然だろう。本誌9月11日号視座で下電ホテルグループの永山久徳代表は、シンガポール出張時に飲食店やテーマパークで外国人と居住者に二重価格が適用されていることを紹介。そのうえで現地に不慣れな外国人旅行者に対して丁寧なサポートが提供されていることなどを理由に、そこには「良い不公平」が存在していたとして、二重価格に肯定的な意見を述べている。

 また9月25日付の日本経済新聞では、同紙の石鍋仁美編集委員がインバウンドにおける需給逼迫と訪日客の経済力による価格の押し上げに関する解決策として二重価格に触れ、長く日本の観光の手本はフランスだったが、今後は新興・途上国のマーケティングに学ぶ場面が増えそうと論じた。

観光客向け値上げの動きも

 日本ではまだ二重価格が一気に実現する段階ではないが、そこにつながっていく可能性がある取り組みや議論は始まっている。

 JRグループは日本を観光目的で訪れる訪日外国人旅行者を対象に鉄道での日本周遊に便利で割安なジャパン・レール・パスを販売しているが、10月1日購入分から大幅に値上げした。例えば普通車用7日間パスは2万9650円から5万円に69%値上げとなった。外国人旅行者の購買力が上昇するなかで、相対的に安すぎた価格を是正した形だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年11月27日号で】

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