船上で知った日本の魅力

2023.05.01 08:00

 朝靄のなか、五島列島の島影が朝日に浮かび上がる光景を眺めながら、クルーズ船のデッキで外国の方々と一緒に長崎に入港する時間を共有した。ゆっくり近づく港の風景を眺めていると、幕末のオランダ船も同じような光景を見て日本に入港したのだろうと不思議なタイムスリップを感じた。グラバー邸のある丘の上に住む知人に船上からSNSを送ると、彼の自宅から見えるわれわれの船の写真を撮影してくれた。

 3月、外国客船の日本就航がようやく再開された。世界最高峰のラグジュアリークルーズとうたわれるセブンシーズ・エクスプローラーの船上で原稿を書いている。海洋国家日本に魅力を感じる外国客船の来航は多く、特に来年からは訪日クルーズが目白押しで計画される。「外国の方に日本はどのように映るのだろう」という素朴な疑問とインバウンド事業のヒントを得ることを目的に休暇を兼ねて乗船した。

 この船の乗客数は746人でほぼ満席の状態。主な国籍は米国50%、英国20%、カナダ、豪州が各10%、日本は数%の10人少々というほぼ異国の世界だ。なるべく多くの方に話を聞こうと、夕食のレストラン予約も「シェアリング(相席)OK」と登録。カナダ在住の弁護士夫妻や英国政府に勤めていた夫妻などと話をする機会に恵まれた。

 クルーズのヘビーリピーターが多く、コロナ禍後にぜひ日本に行きたいと考えていた方、日本に初めて来た方も多く、日本への興味や感心の高さを実感した。印象を尋ねると、東京は大都会なのに路上にゴミがない、自動車がみなピカピカできれい、京都では日本の歴史の古さに驚いた、町の人がとても親切など高評価が続く。私たちには当たり前の日常の姿が訪日のお客さまを魅了していることを知り嬉しかった。

 日本にはいくつの島があるかご存じだろうか。2月に「わが国の島を一定の条件のもと数えたところ1万4125島となった」という国土地理院の発表があった。いままでは6852島(海上保安庁、1987年公表)とされており、大きく異なったのは測量技術の進歩という説明だ。

 20年前のこと、当社クルーズサロンで講演をお願いした法政大学の陣内秀信名誉教授から「クロアチアのツアーを企画するならクルーズで行くべきですよ。ベネチア共和国時代の古都はすべて町の正門が港になっているから」と教えていただいた。早速、クロアチアに飛んで船を探した。小さな島々の入り江に入れる小型船バーバラと出会い、船長と直談判して毎年のようにチャーターすることになった。

 「クロアチアには1220もの小島があり、美しい海洋国家を訪れる旅です」とパンフレットにうたったが、その際、日本の6852という島の数を知り、あらためて豊かな国土を認識した。今回、その数がさらに2倍以上となった。

 クロアチアの中世の港町を船で訪れるツアーは好評で、10年以上毎年のように実施している。ベネチア共和国時代を彷彿とさせる海からの町への訪問はタイムスリップを感じる特別な体験だ。日本でも太平洋側は横浜、鳥羽、そして瀬戸内海の港町(神戸、室津、鞆の浦、尾道)、さらに九州や沖縄は港町の宝庫。近江商人の北前船が訪れた日本海沿いの港町から北海道に続く航路も歴史を感じる素晴らしい体験になる。

 クロアチア同様、いやそれ以上に恵まれた自然の国土や歴史を持つわれわれこそ、海洋国家の魅力をもっと享受すべきだ。クルーズでの歴史探訪の旅は訪日客にはもちろん、日本人にも伝えるべきだろう。日本クルーズにおける高付加価値の観光は自分がやるべき重要なテーマだと新たなヒントを得たクルーズ体験でもあった。

柴崎聡●グローバルユースビューロー代表取締役社長。海外のネットワークから企画が実現した世界初の「ウィーン・フィルクルーズ」はクルーズ・オブ・ザ・イヤー受賞。シェフや音楽家が同行する旅などオリジナル企画を多数実施。カルチャー&ホスピタリティーを念頭に企画から添乗まで現場で陣頭指揮を執る。

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