タクシー不足

2023.04.10 08:00

 最近、都市部で流しのタクシーをつかまえることが難しくなったと感じるのは私だけだろうか。コロナ前は1分すら待ったことのない大通りでも、いまでは10分以上待つこともある。もちろん人流が戻ったせいもあるだろう。需要減の時期にタクシーが減車されたのかもしれない。迎車アプリの比率が増えた分だけ流しが減ったという理由もあるだろう。

 地方でのタクシー不足はさらに深刻だがその意味合いは少し異なる。小さな地方都市の駅前でも、昼間のタクシー乗り場に1台も止まっていないことがままある。電話で依頼しても1時間以上配車に時間がかかると言われたり、前日までに予約必須だと怒られたりもする。さらに最近では、観光地や温泉地ですら夕方で営業を終了する事業者も増えているようだ。

 理由を聞いていくと、どうやら原因は3つに集約できそうだ。1つ目は新型コロナによる需要減による減車、2つ目は人口減や高齢化、コロナ禍での退職によるドライバー不足。ここまでは想像通りだが、3つ目の特殊事情として各自治体で高齢者の買い物や通院にタクシー利用を推奨しているケースが多くあるようだ。

 補助金などを利用し、高齢者が毎日のようにタクシーを使う固定客になればドライバーのスケジュールも予約でほぼ固定されてしまう。その結果として、需要が不安定な駅前や乗車場に待機するタクシーが減ることも、日中が忙しくなったことで夜間勤務にまで手が回らなくなり営業時間外になることも十分にあり得る話だ。

 そうなると、飲酒してしまった住民は家族の急病や仕事上のトラブルなどの緊急事態に対応することができなくなったり、宿泊客が歓楽街に繰り出すことも不可能になったりとさまざまな弊害が出てしまう。せっかく需要が戻りつつある地方の宿泊施設や飲食店にとっては頭痛のタネだ。

 街のスナックに出かけた観光客が戻ることができず、仕方なく夜勤の従業員が迎えに行ったというケースや、深夜到着や早朝出発のニーズに応えられなくなり販売機会を損失したなどの声が聞こえるようになってきた。タクシーは地方における二次交通の要なのだ。

 解決策はすでに存在する。最右翼はライドシェアの解禁だ。しかし日本におけるライドシェアは白タクに当たるため認められておらず、先駆者のウーバーも日本国内では原則的に既存タクシーの配車と飲食店のデリバリーでしか事業を展開できていない。確かに許認可などの法整備は民泊とは対照的に手付かずであるし、都心部や市街地では既存タクシー事業者との競合が懸念されていることも理解できる。しかし、既存事業者の手が回らないエリアや、営業を休止している時間帯にライドシェアを認めることは需要の奪い合いにはならないし、欠けた地域サービスを補完することにもつながるはずだ。

 宿泊事業者において上記のような送迎では法律上料金を徴収することはできず無料奉仕になるばかりか、タクシー会社の業務を妨害したと取られることもある。配車を断られたとしてもだ。しかし、ライドシェアが認められれば退勤した従業員や近隣住民の副業とすることが可能となるのでそこに経済が生まれ、宿泊事業者の負担も減る。限界集落などを抱える過疎地では移動の必要が生じた高齢者を若者が助けるというマッチングの図式が生まれる可能性もある。臨時収入が見込まれることで若者の移住定住の後押しにもなるかもしれない。

 国によってはライドシェアが地方のタクシー会社を吸収し一体化して発展している例もある。排除ではなくWin-Winを目指す段階が来ている。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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