860時間

2024.02.12 08:00

 年が変わるたび、昨年訪れた場所を振り返るのが私の楽しみの1つだ。以前は手帳やアルバムを開いて思い出をたどっていたが、いまではグーグルマップなどのアプリで訪れた場所を調べることができる。どうやら私は11の国、126都市、1051スポットを訪問したらしい。コロナ後の私は移動全開モードだったようだ。

 アプリには移動履歴もほぼ完全に保存されているので私が動いた距離もすぐに計算することができる。ここからは数字の羅列になるがお付き合いいただきたい。徒歩移動した距離は年間で634kmと表示されているが、建物内の移動やスマホを持たない時間もあるので、これよりもスマートウオッチの万歩計に記録された歩数に歩幅を掛けた2651kmの方が正しそうだ。

 車移動は2万8327km、交通機関は3591kmと算出されているが、自家用車のメーターなどと比べても違和感がないのでそのまま採用することにしよう。飛行機移動は10万8047kmとなったが、航空会社で加算されたマイル数とほぼ一致する。ということはこの数値は目的地までの直線距離だろうから、実際はもっと長いはずだ。

 なぜなら国内線の飛行ルートはかなりくねくねしているし、欧州への経路はロシアを避けて大幅に遠回りしたりしているからだ。実際の移動距離はざっくりと2割増し程度で計算しても問題ないだろう。その他自転車や、移動方法不明に分類されたものをすべて足すと、昨年の私の移動距離は約16万5000kmとなる。

 一般的にはこれを地球4周分強と表現するのだろうが、今回は速度でも表してみよう。平均時速だと365日と24時間で割り算して18.8km、平均秒速だとさらに3600秒で割るので5.2ⅿになる。つまり私は毎秒5ⅿずつ移動し続ける1年を過ごしたことになる。昨年私と直接会っていただいた方々は、立ち話であっても1秒で5ⅿずつズレようとする私をつなぎ留めていただいた貴重な方々なのだ。

 とてもリアルな個人情報になってしまうが、同じアプリデータで時間の使い方を振り返ることもできる。私の移動時間は年間1289時間らしい。54日分、1年の15%に達する。移動中の休憩や仕事、情報収集の充実はマストな課題だ。そのうち空港には179時間、7日以上滞在しているらしいので有意義に過ごしたいものだ。

 ホテル滞在は2848時間で119日分、1年の33%を占めるが、これには出張中の睡眠時間も含まれるし、会議の会場であることも多い。私の場合は職場もホテルであるため、これが長いかどうかを判断するのは難しい。観光スポットやレストランが1373時間、年間57日分というのもまあまあ大きな数字だが、そもそも観光地で働く私には公私の区別がつきにくい。自社の飲食店にいる時間や、出張先のカフェでの打ち合わせ時間も含まれるのだろうからこの項目も私にはあまり参考にならない。

 ともあれ、上記をすべて合計すると5510時間、230日分だ。これに出張以外で自宅にいる日の睡眠時間や食事の時間を加えると、概算で7900時間ほどになる。1年のほぼ90%だ。裏を返せば私には、移動もせず、職場や観光地やレストランにもいない時間がまだ10%も残っているということだ。私にとってこの10%こそが大切な時間なのだろう。

 家族との団らんなど自宅で過ごす時間、趣味の時間や人と会う時間、単に休憩したり思索したりする時間、そういった人生のクッションになる時間が860時間、1日のうち2.3時間、140分もある。この時間に日々感謝することこそが今後の人生を楽しむ秘訣かもしれない。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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