少子化問題の本質

2023.03.13 08:00

 岸田文雄首相が年頭に掲げた「異次元の少子化対策」に多くの国民が関心を示している。児童手当など経済的支援の強化、保育や産後ケアなどの支援拡充、働き方改革の推進などが挙がるがどれもこれまでの議論の延長線上で、これらを「異次元」と呼ぶのは少々大げさに聞こえる。だからこそ「育休中にリスキリングなんて無理」などという批判も出るのだろう。

 「出産する時の女性の年齢が高齢化している」との自民党・麻生太郎副総裁の発言を、ある全国紙は「少子化の最大の原因は晩婚化との見方」との見出しで紹介した。見出しのニュアンスが少しずれていることにお気づきだろうか。そして、このことこそが日本の少子化問題の本質なのではないかということを書きたい。

 内閣府や国の研究官が定期的に出す少子化社会対策に関する国際比較が興味深いので、経済協力開発機構(OECD)の調査などと合わせて現実をひも解いてみることとする。それぞれ発表資料や時期が異なるが、それぞれの出典を書くことができないため、あくまで傾向として見ていただきたい。

 先進国の中で少子化対策の結果を出したといわれるフランスと比べてみる。19年の合計特殊出生率は仏1.86人に対し日本は1.36人だ。では、麻生副総裁の発言どおり高齢化しているのかというと、第一子出産年齢は日本が30.7歳に対し仏は30.8歳とほぼ同じになっている。比較のうえでは出産が遅いということは少子化の主因ではなさそうだ。

 次に平均初婚年齢を比べると日本が29.4歳に対して仏は32.8歳。単純平均値では日本は結婚後1年で第一子が誕生するが、仏では出産後2年後に結婚している。つまり婚外子が一般化している。婚外子の割合は日本が2.3%に対して仏は56.7%。また、日本では生涯にわたり出産しない女性の比率が27%と高い。仏はデータの時点が少し古いが13.5%と半分だ。

 さらに国際比較では以下のような傾向もある。結婚してから出産しない女性は比較的少ない。子供のいる女性の就業率はまだまだ低い。夫の家事分担が少ないと感じる妻が多い。2人目以降の出産はじわじわ減っている。

 これらのことから、仮定として現時点での課題は次の2点に集約されるのではないか。まず、出産年齢の高さが問題ではなく、結婚しない女性が安心して出産、子育てのできる環境や風潮が社会に足りないことで、出産の機会が奪われ、生涯出産しない人が漸増している。そして、結婚、出産できた女性であっても育児に夫の協力がまだまだ少なく、家事も含む負担感がとても強いので出産後の就労不安が拭えず、2人目以降の出産にブレーキがかかっている。

 日本における少子化対策は出産支援や子育て支援で解決する問題ではなく、婚姻も含めた家庭や社会のあり方にまで踏み込まなければならない課題なのだ。いまだに女性の社会進出や自立が少子化の原因などと言っている人は残念ながら話にならない。周囲の理解やサポート不足で社会進出が難しい社会だったからこそ少子化に拍車がかかったのだ。

 「異次元の少子化対策」の内容が単なる育児や就労のサポートに対する予算増額だけでは個別の対症療法に過ぎない。根本的な課題は出産の前提が結婚であるという社会通念も含め、当事者である女性以外の周囲がどう意識を変えるかということだろう。もちろん、このような価値観の変化を議論しようものなら各方面から猛反対が起こるに違いない。それでも将来はたくさんの子供の笑顔が見える国を夢見たいものだ。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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