ハワイ島で魅力創造の動き、キラウエア火山噴火を機に

2018.11.19 08:00

現状を報告する職員

5 月のハワイ島キラウエア火山の噴火で日本市場は大打撃を受けた。火山活動が落ち着いたいま、噴火後の火山の魅力を発信したり、キラウエア観光だけに頼らない新たな可能性を探る動きが見えてきた。

 キラウエア火山の噴火から半年近く経ち、現地の観光産業はいまも厳しい状況が続いている。同火山はハワイで唯一の世界遺産であり、ハワイ島ではツアーに必ず盛り込まれるキラーコンテンツで、災害が日本市場に与えた影響は想像以上に大きかった。ハワイ州観光局(HTJ)によると、旅行会社のパッケージツアーの送客人数は噴火前と比較し、半分前後に激減した。

当面の需要回復は厳しい

  噴火の影響を冷静に見つめれば、影響があったのは島全体のごく一部に過ぎず、観光の中心地の西海岸コハラ、コナ両地区に影響はなかった。キラウエア火山国立公園も9月22日に危険区域を除いて開館し、火山を含めた島全域で通常通りに旅行ができる環境にまで復活している。

 しかし、住宅地にマグマが流れ込むショッキングな映像などが報道されたことで、ハワイ旅行を控える動きが依然としてあるほか、現状を知らない人も多く、HTJは当面の需要回復は難しいと見ている。

 現地のツアー会社の担当者は「日本では噴火当時はセンセーショナルに報道されたが、復興の状況は周知されていない」と実感を語る。「現地の住民や観光地も通常通りに戻っており、米国本土に比べて日本市場は回復が遅い」という。

 ハワイ島の航空路線については、ハワイアン航空(HA)が16年12月、羽田からコナへの直行便を就航。昨年9月からは日本航空(JL)も成田/コナ線のデイリー運航を7年ぶりに再開するなど、オアフ島とハワイ島を組み合わせた旅行に加え、ハワイ島単体の旅行者の増加が見込まれていた。

 HTJは噴火前、ハワイ島を訪れる旅行者数を今年で前年同期比30〜40%増と見積もっていた。噴火前の今年1〜4月は前年同期比25.9%増の7万210人と好調だったが、パッケージツアーの落ち込みが大きく、5月は前年同月比5.9増と鈍化し、6月は11.5%減、7月は20.8%減、8月は20.0%減となり、1〜8月の旅行者数は4.9%増と伸び悩んだ。

スチームベント

火山脱却の動きも

 機運の盛り上がりに水を差す形となった今回の噴火災害だが、噴火後の状態に合わせて国立公園をより魅力的に発信したり、埋もれていた素材の可能性を探る動きも出てきている。

 火山国立公園は、火口を間近で見られるジャガー博物館などは今後も入場できる可能性は低い。しかしスチームベントからは噴火前から数倍に広がった火口を見ることができ、噴火前を知る旅行会社の担当者からは「自然のダイナミックさを感じることができた」と感動する声も。噴火前後を比較して見せるようなパンフレット制作を検討する声もあった。

大きく広がった火口

 火山のふもとのパホア地区ではビジターセンターの建設も進んでおり、噴火後の状況に合わせて環境が充実する。ハワイ島観光局のロス・バーチ局長は「溶岩が固まって形成された黒砂海岸が新たにできるなど、魅力が加わったこともしっかりアピールする」と意欲を示している。

 旅行会社によるハワイ島の観光付きツアーはキラウエア火山観光を目玉に据え、マウナケア山での星空観察などを加える企画が一般的だ。一方で、火山観光への依存は、火山噴火のような事態になった場合に需要激減のリスクがあるうえ、企画面で他社との差別化を図れない要因ともいえた。

 新素材としてHTJが最初に目を付けたのは海のアクティビティーだ。たとえばフェアウィンド社が提供する100人ほどが乗れる船で1時間ほどのクルージングを楽しんだ後、湾でシュノーケリングや、船上で手作りハンバーガーなどの食事を楽しむ米国で人気のプログラムを日本市場向けにブラッシュアップする。

フェアフィンドのクルーズ

自然、コーヒー、天文学…

 HTJの酒井剛士営業部長は、米国で人気は高いが日本市場に浸透していないと指摘。旅行会社や現地事業者と協力し、来夏をめどに新素材を投入
する。「ジップラインや乗馬、ヘリコプターなど自然のアクティビティーは豊富にある。訴求方法を工夫し、日本人用にサービスが整えば、大きな需要が見込める」(酒井部長)

 米国で唯一、コーヒーを栽培できるハワイだが、代表的ブランドのコナコーヒーを支えたのは日系移民である。ブランド化の先駆的存在であるUCC上島珈琲のコーヒー農園では焙煎体験を受け入れていたが、今年から9月から1月まで収穫体験を提供。三木秀樹ストア・セールスマネージャーは「研修旅行やインセンティブ旅行に特に引き合いがある。日系移民の歴史に触れながら、収穫の体験ができる」と魅力を語る。

コーヒー豆を収獲

 日系移民と関係の深いヒロ地区の街並みやバニラ農園のほか、世界でも珍しい天文学の博物館・イミロア天文学センター、海洋深層水を活用した日企業によるアワビ養殖場の見学など、工夫次第ではディープなハワイ旅行を希望したり知的好奇心が旺盛な層に訴求できる素材となりそうだ。

行きたくなる空気をつくる

10月1〜3日のグローバル・ツーリズム・サミットでの基調講演で、江藤誠晃氏(バズポート代表取締役)は旅行業界について、「需要創出というより、旅行に行く理由やきっかけを作れていないことが課題」と言及。観光甲子園で今年初めて盛り込まれたハワイ部門で発表された日系移民の歴史をたどる旅やフランダンス体験などといった生徒のアイデアを披露し、「消費として売るのでなく、若い世代は人生の先行投資として旅行を捉える。行きたくなる空気をしっかり作ってあげることが大切だ」と工夫を求
めた。

 旅行会社からは「一定規模の送客が見込めず、火山に頼りすぎるなと言われても難しい事情もある」との声もあるうえ、新たな試みは苦戦している現状もある。

ロスバーチ局長

 ただ、ロス・バーチ局長は「火山観光の需要を取り戻していくことは大切だが、新たに出てきた芽をしっかり守っていくことも使命だ」と強調する。火山噴火は図らずも、日本市場におけるハワイ島観光の可能性に向き合うきっかけになったといえそうだ。

サミットで日本市場の重要性を強調

ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)の年次総会「グローバル・ツーリズム・サミット」は10月1~3日に開かれ、32カ国の旅行業関係者約2000人が参加した。ハワイ州観光局(HTJ)のエリック高畑代表は日本市場の発表で、日本人ハワイ渡航者は海外市場で最も多く、引き続き重要市場であると強調。「シェアリングエコノミーの普及、リピーターやFITの増加など市場に合わせたマーケティングを実践していく」と述べた。ハワイを対象とした19年のJTBのグローバルデスティネーションキャンペーンに触れ、旅行会社と連携を密にして、大幅な需要を図っていく考えも示した。商談会には日本から旅行会社20社約100人、現地関係者150人が参加した。

エリック高畑局長