夜行列車を動かすとき

2023.10.09 00:00

 ユーロニュースはパリ/ベルリン間の夜行列車ナイトジェットが、9年間の運休を経て12月に運行開始されることを詳細に報じた。運行はオーストリア連邦鉄道(ÖBB)、行きはベルリン発20時18分、翌朝パリ到着10時24分、所要約14時間。帰りはパリを19時12分に出て、翌朝ベルリンに朝8時26分に到着、同約13時間。週3便から始め、来年秋には毎日運行となる。途中駅は仏のストラスブール、独のマンハイム、エアフルト、ハレである。ÖBBはナイトジェットと、ユーロナイトと呼ばれる他国の鉄道会社との共同運行列車も含め、スイス、イタリア、ベルギーなど欧州内13カ国29路線を展開している。

 欧州では夜行列車が見直され、この数年新規開設が続いていることを別の記事で伝えている。オランダでは2人の起業家が20年来の夢をかなえ21年にヨーロピアン・スリーパー社を起業、2回の資金調達で250万ユーロ(約4億円)を集め、23年5月、ブリュッセル/ベルリン間の夜行列車を運行開始した。25年にはフランスで「レールの上のホテル」をコンセプトに夜行列車専門会社ミッドナイトトレインが開業、パリをハブにベネチア、バルセロナ、フィレンツェ、マドリードを結ぶ予定だ。また、ナイトジェットは新しい車両にワイヤレス充電ステーション、無料Wi-Fi、自転車やスノースポーツ用具置き場、専用シャワーとトイレ付き専用コンパートメントを備える。

 飛行機より鉄道が選ばれる背景には環境意識の高まりがある。例えばロンドンからパリまでの移動では、CO2排出量は飛行機は電車より14倍多い。フランスでは今年5月から電車で2時間半以内に移動可能な短距離国内線を禁止し、鉄道利用を促進している。グローバル・レイルウェイ・レビューが昨年実施した調査によれば、回答者の3分の2が飛行機より鉄道での旅行を好み、ビジネスでは66%が、レジャーでは77%が鉄道旅行を選ぶと答えたという。「フライトシェイミング」「ノージェットセッター」などの社会的運動も生じている。

 ただし夜行列車の運行と経営はそれほど簡単なことではない。時刻表作成には国家間の調整が必要で、通常夜間に予定される保線作業はスケジュールをしばしば混乱させる。さらに日中は使用されない寝台列車の車両を置き、整備や清掃場所を確保する必要がある。列車が増え事業規模が拡大すれば、インフラ整備のさらなる投資が必要となる。

 ÖBB広報担当のリーダー氏は現在、寝台サービスは経済的に成り立たないことが多いと述べる。「ホテル運営」と旅行を1つの商品とするコストは、鉄道による日帰りのコスト構造より大幅に高くなる。それでも条件が変われば経済的に成功する可能性があると同氏は言う。

 記事では、環境意識の高まりにより寝台列車が欧州を移動する最も人気のある手段の1つになるという。昨今、日本でも環境問題への関心は高まっているが、果たして夜行列車を復活させるまでになるだろうか。

小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。

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