サマータイム

2023.10.09 08:00

 酷暑もようやく終わった。この夏は126年間の観測史上で最も暑い夏だったようだ。それ以前はどうだったのか、厳冬もあるのに本当に地球は温暖化しているのか、そして温暖化に人類がどの程度関与しているかというそもそも論や責任論は研究者や政治家に任せるとしても夏が年々暑くなっているのは間違いない。

 一昔前は縁側でうちわを片手に、氷水で冷やしたスイカでも食べれば十分に涼をとることができたものだが、外気が体温を超える日すらあるいまではそんな風情は感じられない。夜であっても熱中症の危険を呼びかけられるほどだ。東京における35度以上の猛暑日は1970年代の平均は1.5日だったが、今年は8月末時点で23日を数えるまでになった。明らかに昔とは違うのだ。

 高校野球に代表されるスポーツ大会も文字通り命懸けになった。熱中症と思われる症状を呈した選手の退場も相次ぎ、炎天下で応援する観客の安全にも懸念が示されたことから、開催時期の変更やドームやナイター開催なども議論され始めた。上の世代が「近頃の若者は軟弱だ。われわれの若い頃は水も飲まずに根性で乗り切ったものだ」といくら自慢したところで、前提となる気温が全く違うのだから仕方がない。

 国の重要無形民俗文化財である福島県の相馬野馬追(のまおい)が24年以降は5月開催に変更される見通しとなるなど、伝統行事であっても猛暑を避ける動きが出てきた。お盆はわれわれわの業界にとっても書き入れ時だが、この時期に民族大移動することや屋外イベントを集中開催することが国民の健康においても経済にとっても良いものかどうか考えざるを得ない状況だ。

 そのような理由から夏休みやお盆休みの変更を説く論説も増えてきたなか、面白いパターンとして日本もサマータイムを検討してはどうかという意見があった。欧州を中心に広く行われているサマータイムは本来暑さ対策ではなく、高緯度の限られた日照時間を有効に生かすためのものであるため、そもそもの目的が異なることは承知だが、頭の体操として考えてみることにする。

 夏季の時計を1時間進めた場合、例えば通勤時間はいまより1時間早起きした状況になる。なるほどかなり涼しくなるはずだ。逆に夕方仕事が終わっても日没までの時間は長くなる。暑さが残る時間になるが、暗くなるまでは家に帰らず活動する人も増えるだろうから、飲食店や商業施設は繁忙時間が長くなり、経済効果も生じるかもしれない。

 日が暮れなければ始められない花火大会や盆踊りはいまより遅めの開催になるが、それはそれで人出が増える可能性も高い。欧州では過去には照明に必要な電力が減らせるという理由もあったようだが、太陽光発電が増えた日本では、サマータイムにより東京では夜20時前まで日照があるとなると、人流の活発な時間に太陽光の電力を有効活用するメリットも生じるはずだ。

 デメリットは年に2回時計を修正する社会コストと混乱がどのくらいのものか想像がつかないことだ。サマータイムに慣れている欧州でも一斉変更は大変だ。切り替え時の健康面やIT化によるシステム変更の煩雑さから反対する廃絶派と、環境問題に対するプラス面やさらにDX化が進むことで変更が簡便になることに期待する積極派がいるようだ。

 アジアではサマータイムの導入事例がなく、各国と日本で時差が広がってしまうため経済の一体感が損なわれるという意見もある。実現性はともかくとして、サマータイムが導入されたら日本の夏はどう変わるのか、想像してみるのはとても楽しい。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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