旅がもたらす外向き志向

2023.05.01 08:00

 旅は環境や社会にマイナスの影響も与えるが、旅人が増えることで持続可能な社会はつくれると信じている。持続可能な社会とは、停滞せず常に変化し続ける社会であり、旅がその変化を促すからだ。

 旅には、人を育て社会をつくるという効用がある。旅人はさまざまな土地で発見や気付きを得て、人生観が変わり成長が促される。また、旅人は旅先のコミュニティーの一員ではないよそ者であるため、客観的に地域の良い面と悪い面が見えるからこそ、成長した旅人が地域社会に変化をもたらす。この変化の連続こそ、持続可能な社会の成立に欠かせない。事実、人類の歴史は移動と交流によって文化や社会をつくってきた。この土台となるのが、基本的人権が守られている環境だ。

 しかし現在、世界では格差が分断を生み、ポピュリズムが広がって専制的・独裁的政治が多くの国で行われている。どの国も自国中心主義に陥り、地球益ではなく国益や地域益を優先して、国家間の対立も激化した。コロナ禍は、内向き志向を加速させた。結果、世界のあちこちで戦争や内紛が起こっている状況だ。

 世界各国の政治制度や民主主義の健全性を調査する機関V-DEMのデモクラシーレポート2023によると、過去35年間進めてきた民主主義のレベルが大きく下がった。特定の人によって専制的・独裁的に統治されている世界の人口は、12年に33億人(46%)だったが、22年には57億人(72%)まで急増している。

 民主主義が機能していない国が増えた結果、地球的課題は先送りされている。自国中心主義の政治が意外にも社会基盤の本質的な取り組みの障害になっている。人権問題や環境問題がいい例だ。民主主義を実現するためには、公共的なはずの行政や国の透明性、説明責任、内部統制を市民が監視できる体制が必要だ。そこに旅人のよそ者の視点が加わることは重要だ。

 こんな時代だからこそ、各地を自由に移動する旅人は大きな役割を果たす。旅には人との出会いや交流があり、相互理解を促進し信頼関係を築ける。その信頼関係により、世界の共通の課題が共有され、共に進んでいける社会基盤づくりにつながる。新たに表れる課題に対応するために変化し、それがサステナブルな社会をつくることになる。

 旅人は旅先の地域社会や経済、環境に関心を持ち、良いところを自分の暮らしの中にも取り入れる。問題点や気になった点は同じような課題がないか考え、良い解決策があれば取り組んでみる。これを繰り返すことで、旅を通して社会が少しづつ良くなっていくと思う。これこそ、旅を通じて持続可能な社会をつくることができると信じている理由だ。

 サステナブルな旅とは、旅をする時、未来の理想の社会を想像し、旅先の地域社会のことに関心を持って旅することだ。それが、旅を通じてサステナブルな社会をつくることになると考える。

行方一正●ピーストラベルプロジェクト代表取締役社長。陸路で世界一周を経験し、創業間もないエイチ・アイ・エス(HIS)に入社。代表取締役専務を務め、CSR、スタディーツアーを推進。現在、平和につながる社会性のある事業への投資・支援、サステナブルな旅の情報サイト「サスタビ」を運営。上場企業の役員等も務める。

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