<寄稿>ポストコロナの時代、観光地経営に求められる課題

2022.09.06 00:00

黒川温泉

 先日、東アジア諸国のインバウンドに高い人気を誇る、とりわけ温泉と景色で有名な熊本の阿蘇くじゅう国立公園や黒川温泉周辺を見て回った。平日だからか、外国人観光客がいないからか、阿蘇山周辺は人も車も閑散としていた。しかし、温泉街(黒川温泉)では意外に宿泊者が多く、若い人が多いことに驚いた。

 関係者曰く、夏休みでもあり、県民割もあるため、いまはまだ大学生を含め多くの人が来てくれているそうだ。知名度が高く、固定ファンがいる観光地や宿は、インバウンドに頼り切っていた施設に比べれば、いまはそれほど大きな影響は出ていないのかもしれない。

 国内・海外を問わず、観光需要はコロナが終息すれば、強いバネのように回復するはずである。もちろん、これまでとは観光の形が変わるかもしれない。また特に海外旅行においては、警戒心理などから当面は需要回復が難しいことは想像に難くない。問題はウィズコロナ、ポストコロナ時代における観光地経営をいかに行っていくかである。つまり観光地や、宿泊施設をはじめとする観光施設が、これからの観光ニーズにどのように対応していくかだ。

 コロナ禍、ゲストもホストも観光に対する意識、行動、欲求などが大きく変化している。JTB総合研究所の調査(21年7月)によると、約7割が「海外からの観光客には来てほしくない」と答えたという。神奈川県観光協会の調査(20年12月)でも、外国人観光客の受け入れには7割以上が否定的である。

 むろん、調査時期によって異なる結果が示され、コロナの長期化やワクチン接種等が進むことで観光客に対する認識も変化する可能性があり、結果の普遍化は難しい。とはいえ、以前に比べ海外からの観光客に対する拒否反応(Tourists-phobia)が一段と高まったことは否めない。

コロナで高まる訪日人気

 半面、海外では面白い調査結果が出ている。22年5月に韓国観光公社と旅行新聞が共同で行った調査では、回答者の9割近くがこの1年以内に海外旅行をする意向があると答えた。旅行先での活動としては「自然体験」に対する関心が高く、旅行形態としては「団体旅行(パッケージツアー)」と、他人との接触がほとんどない「超個人旅行」を好む結果が出た。

 これまで韓国人の海外旅行は、個人(個別)旅行が主流だったが、ここに来て一部逆戻りした形だ。パッケージツアーが好まれることについては、防疫に対する確実性と万が一に対する安心感が選好の理由と分析している。

 VISA Koreaが発表した調査結果(21年11月、22年7月)を総合すると、旅行費用が海外旅行の重要な考慮事項となっているが、それに加えて現地での緊急事態への対策、衛生・清潔、心理的安定などがコロナ前に比べ重視する項目として挙げられている。旅行目的地としては、従来は東南アジアが人気地域として選ばれたが、いち早くコロナの規制緩和をするなど柔軟な対策を講じる欧州や米国などが増加した。

観光地経営への提言

 そんな中、一つ注目すべきは日本が海外旅行目的地として非常に高い人気を集めていることだ。他の有名目的地と比べても、日本はずば抜けて人気が高い(1位日本20.5%、2位ベトナム9.7%、3位タイ8.2%、4位米国6.5%、5位シンガポール5.2%)。

 コロナ禍での旅行目的地として日本が選ばれるのは当然の結果とも考えられる。インバウンドの受け入れを憂慮する声が高い半面、訪日需要の強力なバネをコロナが一時的に押さえつけている格好だ。この相反する溝をどのように上手に埋めていくかが、今後のインバウンド観光地経営の要となる。

 まずは情報戦略の確立である。安全性、入出国手続き、現地での万が一の際の対応など、旅行者が求める関連情報をわかりやすく提供することが必要だ。次にマーケットニーズの明確な把握である。旅行形態、旅行先での活動など、旅行者ニーズの把握と対応が求められる。

 同様に旅行形態やニーズの変化に柔軟に対応するための準備や体制づくりが必要となる。また、起こりうるトラブルを最小限に抑えるためには、ホストとなる地域社会に対しても明確な情報提供と、受け入れに対する共感の形成が重要になる。

 内部的・外部的影響を受けやすい観光業は、常に常態と非常を繰り返してきた。しかし、コロナ禍は観光業には例外的非常であり、常態化しようとしている。これからの観光は、この例外の状態とどのようにうまく付き合っていくかが、旅行者にとっても観光業者にとっても地域社会にとっても重要だろう。

崔載弦(東海大学観光学部准教授)

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