再びGoToへの誤解に

2022.04.11 08:00

 本稿執筆時点でGoToトラベルキャンペーンの再開がいよいよ見えてきた。しかし、待望する人々の一方で否定的な意見も相変わらず根強い。繰り返しではあるがGoToに対する誤解を整理し、施策の意義について再確認しておきたい。

 まず、「GoToは税金のバラマキだ」という誤解。現実は逆で、国の財政を傷めないどころか助けるものだ。GoTo補助額を旅行商品の半額と単純化した場合、旅行者が1万円の補助金を得るためにはまず2万円の支払いが必要となる。旅行者の消費総額については諸説あるが、そのさらに2~5倍といわれる。旅行総額を税別5万円と低めに仮定した場合は5000円、補助額の半分は消費税として国庫に戻る。

 また、営業縮小を余儀なくされていた観光事業者は雇用調整助成金の受給を受けていたが、一般的な接客業の人件費率は売り上げの30%とされているので、5万円の消費に対して1.5万円分の申請が減る計算になる。国の補助した1万円に対し、消費税と雇調金だけで国の収支は2万円良化する。その他の経済効果を加味するとさらに上回るのは確実だ。GoToはむしろ効率の良い収益性投資事業だ。

 次に「GoToは金持ち優遇、高価格帯の宿に有利だ」という誤解について。観光庁のデータによると宿泊単品の利用料金は1万円未満の利用者が66.9%を占めている。高価格帯の施設が安く泊まれるといったイメージが強く、注目されたのは確かだが偏ったという事実はない。約8800万人泊の実績は金持ちだけでは成し得なかったはずだ。

 また、「旅行したい人はGoToがなくてもすでに動いているのだから不要だ」という誤解。需要喚起策の本質は、19年時点で国内約6億人泊あった需要の19.4%を占めていたインバウンドが復活するまでの間、国内旅行客がその穴埋めをしなければならないことだ。国内の旅行人口(3.1億人)か、1回の旅行の平均泊数(1.5泊)を2割以上増やさなければ業界は回復しない。インバウンド回復までの間、観光事業へのテコ入れは必須の経済対策、雇用対策である。

 そして、「GoToはコロナの収束に合わせて終了すべきだ」という誤解。すそ野の広いことで比較にされる自動車産業の例でいえば、08年のリーマンショックの影響で自動車の生産台数が約9%減少したことへの対策として09年から始まったエコカー補助金制度がある。この補助金は14年経過したいまでもサポカー補助金、クリーンエネルギー自動車補助金、自治体での上乗せ補助金などに形を変えながらも続いている。もちろん今回、観光業の受けた影響は9%どころではない。

 最後に「GoToは需給をゆがめている」という誤解について。高級ホテルにレベルの低い客が殺到して困る、安売りから元に戻れない、という宿泊施設関係者からの不安も多く見られた。しかし、逆にGoToが中止されてからも高級施設の稼働が落ち込んでいないケースも多くみられる。一度高級ホテルを体験したことで上級シフトした一面を表しているのではないか。

 この声には、事務作業が多くなり現場が疲弊したとの意見が含まれる。確かに増えた手間の多くを末端の宿泊施設が負担するシステムには改善余地があるが、多くの施設は配置転換など労務側で対応しており政策とは別の課題だ。

 これらの誤解を一つ一つ丁寧に説明していかなければ、GoToの再開に対する国民の抵抗感は拭えないだろう。GoToは業界のためだけではなく、社会の正常化のために必要だとデータを基に根気強く訴える必要がある。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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