メイド・イン・ジャパン

2021.11.08 08:00

 商品や製品の生産国表示を見て、「なんだ、国産じゃないのか」とがっかりする人が一定数いる。メイド・イン・ジャパンが安心安全、高品質の証しであると自負する日本人も多いだろう。しかし、筆者の子供の頃である1970年代でもまだメイド・イン・ジャパンは「安かろう、悪かろう」という意味の言葉だった。

 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で50年代に生きるドクが「安物を使うからだ。ほらメイド・イン・ジャパンと書いている」と嘆き、80年代から過去に来たマーティは「何で?すごいモノはみんな日本製だよ」と答えるシーンに象徴されるように、メーカーや国民の努力によって日本製品の品質が上がり、悪評を覆した歴史が日本の成功体験の1つであるのは間違いない。

 しかし、いつまでも盲目的に「日本製は世界一」と過信している人が多いのは危険だ。電気自動車の性能や商品力はすでに欧米メーカーに水をあけられつつある。スマホの性能ももはや海外メーカーには追い付けない。部品は優秀だがその材料の半導体は作れない。円安頼みの中間品加工国になりつつある現実を直視しつつ、われわれの強みを生かさなければならない。それなのに大勢を占める声は「ハイブリッド技術なら世界一だ」「せめて電池は日本製じゃなきゃ」などと、プライド優先で危機感が感じられない。

 確かにハイブリッドカーも、量産電気自動車も、もっと言えばスマホの原型となったタッチパネル携帯も日本発祥だ。しかし、せっかくの技術の有意義な使い方、欲しいと思う憧れを消費者に提案できず、テスラやアップルに美味しいところを取られてしまったことはもはや事実だ。日本ではもう旅客機の製造も絶望的だ。日本を卑下する必要まではないが、現実を直視できなければ浮上することも難しいだろう。

 嘆いていても仕方ないので、いまのわれわれにできることを考えよう。まずは自国の基幹産業に興味を持つことだ。例えば自動車にこれだけ偏重した産業構成の日本なのに、モータースポーツにはまるで興味がなかった。いまだに「車で競うのは暴走族」という考えの人もいる。五輪は開催されたのにF1日本グランプリは事実上門前払いするなど行政の理解も低い。車を道具としてのみ捉えていたのでは、今後も世界に車を売り続けるのは難しいだろう。

 クールジャパンと自慢する割に日本人はアニメにもゲームにも冷たい。アニメの視聴やゲームを嫌う親も多いし、利用制限を決議する県議会すらある。コンテンツ産業が未来の基幹産業だというのなら、もう少し実態がどういうものかくらいは知っておく必要もあるだろう。

 ちなみに子供のなりたい職業ベスト4にはユーチューバー、eスポーツ選手、ゲームクリエイター、ITエンジニアが連ねている。大人には理解不能でも子供の夢はこれなのだ。しかも、いずれも今後の日本経済復興には必要な資質なのだからこれを育てない手はない。今後魚屋で生計を立てようとしている人が魚を好きな人を煙たがっているのがいまの日本だ。

 あとは、もう少しITを真剣に学ぶことだ。高齢者のITスキルは世界でも明らかに低い。銀行のATMコーナーで高齢者が毎回操作を行員に手伝わせて長蛇の列になっているシーンは令和になってもなお日常だ。海外ではむしろ高齢者の方がスマホ決済やネットショップを活用している。GoToトラベルや給付金やワクチン接種にアナログ手続きも併用しなければ利用できない人が多い国で、世界に先駆的なITサービスが生まれる可能性は低い。大人の心がけ次第で次世代の日本は再び浮上できる。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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