観光業界キーパーソンの23年回顧と展望②

2023.12.18 00:00

観光に携わる関係者は23年をどのように捉え、24年に向かっていくのか。トラベルジャーナルが旅行業、宿泊業、運輸業、DMO、行政、観光関連・経済団体、シンクタンク、大学など、観光業界のキーパーソンに実施した「23年のニュースランキング」に関するアンケートから、自由記述欄に寄せられた回答を紹介する。ニュースランキングの結果は週刊トラベルジャーナル23年12月18・25日号で。

「週刊トラベルジャーナルの特集にもなったラーケーションには期待したい。季節・曜日分散ができない要因の1つが硬直的な学校システムで、その改革の第一歩だと期待しているからだ。日本の課題に老々相続による金融資産の高齢者偏重がある。ラーケーションの延長として、学費はすべて祖父母からの贈与となるべきだ。国の借金に頼らずとも1000兆円の資産が下の世代に贈与されさえすれば、最も旅をする若年層の旅行消費となっていく」

「コロナ禍が一服するも、戦争や紛争による原油高に加え、円安・物価高による航空運賃や光熱費の高騰、担い手不足と、観光業界を取り巻く環境は依然として先行きが不透明である。京都においてはオーバーツーリズムの発生と課題は山積。これら課題を解決し、持続可能な観光業界を目指していくためには、業界の健全化(生産性向上や適正な新陳代謝、DX推進)が必須であり、そのかじ取りを担うDMOの役割がさらに重要になってきているのではないか」

「コロナ禍が終わり人流が戻ったことで、何もかもが戻ったという風潮に予想どおりなりつつある。それ以上に日本ではもはや持続不可能な地域の課題が顕在化した。地域の衰退を観光で食い止めるという大儀が忘れ去られ、オーバーツーリズムのような目に見える課題にフォーカスされる危うさ。観光産業全体のリストラクチャリングもあまり進まず、その意味では絶好の機会を失ったともいえる」

「コロナが5類に移行されたこともあり、今年度の修学旅行の実施率は、国内はほぼコロナ禍前に戻っている。しかしながら、旅行会社や宿泊施設、バスドライバーなどの人手不足によって、学校に旅行会社からの新しい情報が入ってこない、宿泊施設や貸切バスの確保が難しい、加えて人件費等の高騰に伴う旅行費用の上昇といった、懸念材料が多々生じてきている。また、オーバーツーリズムの再燃で、京都市内などで生徒の班別行動に再び支障が出てきている。さらに、中学・高校の多くが、信用がおけるとして大手旅行会社5社に修学旅行を扱ってもらっていたが、大手旅行会社の不正はその信頼を揺るがすことになりかねない。大阪万博を訪問先に予定している学校も多く、これからの修学旅行にとっての不安要素が山積みだ」

「22年のコロナ禍と政府が主導した需要喚起が落ち着き、23年は通常どおりの1年になると思いきや、円安が大きく影響した1年だったように思う。円安に伴う訪日外国人の急回復はもちろん、海外旅行が縮小するので、いまだ続く需要喚起とあわせて国内需要が高まった。ただ、食材や資源の価格高騰と人材不足の深刻化に伴い、まだまだ経営の改善は見込めていない事業者が多いと思う」

「訪日外国人がコロナ禍前と同水準に戻るなど、明るい兆しが見られる一方で、地域の観光関連事業者は物価上昇による収益圧迫や人手不足による防衛的賃上げ、需要の取りこぼし等の課題に直面している。観光立国推進の軸足が量から質に転換されるなか、各地で持続可能な観光地域づくりを進めていくためにも、観光関連事業者を含む地域経営主体が一体となった面的取り組みが不可欠である」

「アウトバウンドの話題が多くなり、ようやくコロナに区切りがついた感がある。しかしながら、円安、インフレ、燃油サーチャージの高騰と逆風が強く、市場回復の鈍化が続いていることを非常に危惧している。世界を見てもオーバーツーリズムや人材不足、サステナブルへの対応など、業界の変革は待ったなしの状況になっているなか、スピード感ある挑戦が必要だと感じている」

「コロナ規制撤廃をはじめ、久しぶりに明るい話題が増え、観光産業には追い風の年となった。一方で酷暑(異常気象)、人手不足、戦争などの拡大が、内需回復にブレーキをかけることを懸念する。インバウンド市場の価格が円安のまま固定化すれば、高騰する国内物価に対して個人消費はデメリットが大きくなると懸念する。ライドシェア解禁や生成AIの活用と対応は、人口減少が続くなか、ビジネス・サービスモデルの転換を余儀なくされると強く感じた年」

「コロナ禍を経て、世界の旅行業の流通形態が大きく変化し、かつ日本においては原油高、円安、物価高騰など、海外旅行復活にかなりの逆風が吹いている状況下にある。われわれ旅行業者もコロナ前の販売形態と旅行代金に固執するのではなく、時代の環境に合った姿に対応していかなければ、旅行業界の社会的存在意義は失われるのではと危惧している。もはや民間の努力だけではどうにもならない部分もあるので、業法改正なども含め、官民一体となり旅行業界全体を見直すべきタイミングだと感じている」

「日本版DMOが世界水準のDMOに生まれ変わろうとしている。いまこそ、グローバルな視点から、DMOとは何かを体系的に整理する必要があるのではないか。世界各国・地域・都市のDMOが日本市場に進出し、活発な活動をしている。海外DMOから学ぶことは多い。海外DMOはDXやSDGsなど時代のキーワードを塗りつぶすような仕事はしない。ブランドやマーケティングといった全体戦略の中で、どうフィットできるのかを検討し判断している」

「インバウンド復活の年、メディアでは引き続き数を追いかける姿勢が見えるが、注目したいのは、いかにサステナブルなツーリズムの姿を描けるか。例えば地方誘客や高付加価値化に取り組めるかだ。本気で観光立国を目指すのであれば、数を追う政策ではなく、世界のステイクホルダーツーリズム先進国に学び、結果が出ている取り組みを積極的に取り入れ、真の観光立国を目指すべく、観光DXの観点からソリューションを提供していきたい」

「観光業界もいろいろなプレイヤーが参入しており、活気がある。どこにトラベルジャーナルがビジョンを持っていくのか、今後注目している」

「コロナ明けの渡航回復は、業務渡航業界でも受注増加・新規引き合いの多さなどから身をもって感じている。それと反比例するかのように、人手不足はドライバーやホテルだけでなく旅行業界でも同様で、需要に応えられないもどかしさを感じる」

「23年はインバウンド需要の急速な回復への対応に追われていた印象があるが、24年は持続可能な観光、高付加価値化、地方誘客といった課題によりじっくりと戦略的に取り組んでいく年にしていきたい」

「コロナ禍の間に、国としてどのような観光戦略を模索すべきなのかをしっかり議論しておくべきであった。またオーバーツーリズムの弊害が起こっていることを深く反省すべきである。サステナブルツーリズムを模索することが今後の緊急の課題である」

「コロナが収束し観光客が動き始め、一部の地域ではオーバーツーリズムの問題が発生するも、人込みを避けた自分だけの旅も見直され始めた。テレビなどのぶらり旅の紹介も多く、自分の趣味やライフスタイルに合った旅も増えてくる兆しが出ている。それは旅行会社の顧客ではない人たちで、自分ですべてネットなどで手配してしまう」

「23年の主なニュースに旅行業そのものの主体的な話題が少ないとあらためて感じる。しかも良い話題、将来に向かった明るい話題がほとんどないのが印象的だ。大丈夫か、旅行業界」

「ジェットコースターのような展開だったが、24年は必ずクルーズブームとなる」

「特に地方観光においては、海外では少人数のチャーター観光や少人数のバンツアーが人気だが、日本においては高額なタクシーでの移動か大型バスツアーしか選択肢がないのが現状。日本を訪れる訪日個人旅行者にとってライドシェア解禁のメリットは大きい」

「急速なインバウンドの回復に観光現場のリソースが足りていない。コロナ前と比較して円安も後押しし、より新しい価値を求めて訪日していると感じる。さらにインバウンドが拡大していくなか、特に宿泊施設においては、日本人客が宿泊しにくい価格設定となり、旅行離れが懸念される」

「円安の大幅改善が当面は見込めないなかで、海外旅行の回復が厳しい。コロナ前と比較して仕入れ条件もますます厳しくなっていくなか、日本の約款等の規制緩和を検討すべきでは。また、旅行業界への就業も人気が低下しており、人手不足は深刻。個社単位の活動では難しいので、業界としても働く魅力を再構築していく必要があるのではないか」

「22年から国内旅行は19年を超える勢いで活発だったが、23年の全国旅行支援の継続や新型コロナウイルス5類移行、水際対策の緩和などにより、旅行機運が一層高まった1年であったと考える。一方、人手不足の課題を感じる機会が増加し、サステナビリティーやオーバーツーリズムといった言葉もあり、課題への取り組みの必要性や需要の変化を感じている」

「昨年は社会全体がウィズコロナに踏み出した年だったのに対し、今年はアフターコロナに本格的に切り替わったと感じている。海外旅行や訪日旅行の回復、ツーリズムを推進する動きなど、業界が活発化する話題の一方で、為替や国際情勢、業界としての課題などは今後も注視が必要だと感じる」

「今年の観光業界に大きな影響をもたらしたものとして、やはり5類移行後に各種制約が解除され、旅行需要が大幅に回復したことが挙げられる。また、旅行需要の回復と並行して、観光業界の深刻な人手不足が浮き彫りとなった1年でもあった。今後、業界全体で生産性の向上に取り組み、各社が持続可能な企業活動を行うことで、観光業界を目指す人を1人でも増やす努力を続けていく必要がある」

「オーバーツーリズムも訪日客の急増は一方で人不足に起因する。地方で交通関係の改善をしようにも人はいないので、外国人を含め業界全体での雇用や高付加価値化など抜本的な体質改善が必要。ライドシェアや着地型対策はあくまでもそれらが前提にあり、サステナブルがキーコンセプトとなる」

「国内・訪日旅行が急回復しているなか、海外旅行の復活が業界としては大きな課題。観光庁とともに需要喚起への取り組みを強化していきたい」

「何といっても、3年半続いたコロナ禍が終息したことが、今年の最大のニュースだと思う。もう一つは未曽有の円安。インバウンドもアウトバウンドも為替レートに大きく左右される。日本の国力が相対的に下落していくなかで、インバウンド産業こそが、日本の地域を支える重要な産業になっていくことは間違いないと思う」

「コロナ後の観光の急回復で、人手不足やオーバーツーリズムなど課題も一気に顕在化した。迅速な対応が必要だが、中長期も見据えて場当たりではない取り組みを心がけたい」

「平和なくして観光産業は成り立たない。あらためて世界平和や災害への対応の大切さを感じている」

「コロナ禍を契機にこれまでとは異なる分野にも事業を拡大している。コンプライアンスについては業界としてさらに取り組みを強化する必要性を感じる」

「少子高齢化の進展による働き手不足は深刻。特に必ず1台に1人以上必要なバス事業では、業務のシェアやIT活用による省力化が困難なため大きな課題」

「先進国では公的セクターが担う地域公共交通を民間が事業(ビジネス)として提供できた好条件は削げ落ちた。昭和の“よかった頃”への郷愁を断ち切らなければ将来はない。かといって国や自治体の財源に限りがあるなかで地域公共交通網を維持するための切り札を見つけたわけでもない。地道な試行錯誤と大きな発想の転換を同時に進めることしか思いつかない」

「コロナ禍における準備の成果が今後見えてくるが、その行く末に興味を持っている」

「人手不足の問題とオーバーツーリズムの問題に特に着目している。これほどまでに業界の需要バランスが崩れていくことは経験したことがなく、さまざまな側面で現場が悲鳴を上げている。インバウンドで実績を上げたとしても、業界の持続可能性に疑問がある。一方、観光教育の現場にも携わっているなかで、観光業を目指す次世代の学生も業界の先行きに懐疑的になっている姿を見て、一層不安になることがある。さまざまな立場から観光業界のあるべき姿を議論し、次世代の担い手を育成していく必要があるとあらためて痛感している」

「持続可能が基本計画の中心に掲げられた点や量から質への転換は評価できる。一方で、現役世代だけではなく将来世代にも恩恵があるあり方や開発と保全の調和など、持続可能な開発の理念に基づいた目標が見えないのが残念。また、コロナのような急激な環境変化に対する脆弱性を克服する観光産業の強靭化の具現化も、今後に期待したい」

「円安がこれほど観光に恩恵があることを示したのは、戦後の歴史の中でも今年が初めてではないか。インバウンドという新たな武器を手にした日本経済を象徴する出来事だったと思う。IMFの報告では日本のGDP規模は世界4位に転落する。日本の世界的なプレゼンスが低下するなかで、米中大国にも負けない世界のトップを目指せる分野が日本の観光ではないかと考えている。デジタル敗戦の平成時代から観光先進国の令和を象徴する転換点といえるだろう」

「受託事業を巡る大手旅行会社の不祥事は、単なる法を犯す不祥事というよりは、失われた30年を象徴する事件だと思う。通常、完全競争下において不況は悪いことばかりではなく、生産性が低い企業を淘汰させ、M&A、新興企業の勃興など流動性が高まり、次の発展のドライブとなる。米国の持続的な経済成長はそうした新陳代謝のダイナミズムが背景にある。しかし、日本経済が成長しない最大の理由は既得権者が固定化することにある。旅行大手の不祥事も東芝の迷走も本質的には同じ現象だ。過度な政府の介入は官製企業が政財界の癒着の中で既得権者を温存・固定化させ、経済のダイナミズムの機会を奪っているということを私たちは学ぶべきだろう」

「ブッキング・ドットコムの支払い遅延の問題に関し、実質的には国内で取引は行われているのに、ネット上の商取引が国内法規制では管理できないという矛盾。これは旅行業界だけではなく、また日本だけではない世界中のあらゆる業界で起こっている問題であり、デジタル商取引の国際的な法体系整備の必要性を考える機会になった」

「今年はラーケーション元年だった。まだ導入する自治体は少ないけれども、観光の新たな価値を気づかせてくれた大きな一歩だったと思う。来年はその動きが広がっていくことを期待したい」

「公共交通は、都市の持続可能性、地域経済の循環、可処分所得の向上、脱炭素、住民の健康増進、中心市街地の活性化などの観点から重要であるが、一方で、バスの運転手不足により、全国的にバスの廃止・減便が相次ぐ。バスの比重が高い地方都市は深刻な影響を受けている。公共交通全体で密度を高めていくとともに、MaaSなどの導入で観光客も使いやすい仕組みを構築することが大切。今年度から社会資本整備総合交付金を公共交通の整備に充てられることになったのは大きい」

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