電動キックボード

2023.11.06 08:00

 無駄な買い物にならないか逡巡していたが、意を決し電動キックボードを購入してみた。7月に改正道路交通法が施行されたことにより、何が変わったかを自身でも体験してみたかったからだ。なるほどこれは想像以上に面白い。

 改正内容について簡単に書くと、従来の原付一種の区分を変更し「特定小型原動機付自転車」を新設。最高速度20キロ以下。歩道モード(6キロ以下)で自転車通行可の歩道を走行可、ナンバープレートや自賠責保険加入は必須。16歳以上なら運転免許不要、ヘルメットの着用は努力義務となった。

 免許不要というずいぶん「攻めた」定義で、消費者からは不安の声も大きい。ルールを無視した若者の危険運転を問題視するニュースも幾度となく流されている。

 法改正前から実証実験されていたシェアサービスのLUUP(ループ)等もあったが、歩行者側から見れば歩道をわがもの顔で走る無法者と、法を順守するナンバー付き車両との区別がつかず、出くわすとどうしても身構えてしまう。実際運転した側としては路上駐車だらけの車道を走る怖さを感じたし、ルールを順守していてもドライバーに怒られたり、ヘルメット任意の特例を知らない警察に呼び止められたりもした。解禁による混乱を想像し不安になるのも当然だ。

 しかし今回の法改正は、実証実験時に私が感じた課題を丁寧に解決させている印象だ。最高速度20キロも原付の30キロとの差を考えると合理的だし、路上駐車の多い区間やトラックの行き交う幹線道路など車道を走るのが怖いと感じる区間では歩道を走行できるのも現実的だ。歩道モードでは車幅灯が点滅するので歩行者にも注意喚起することができる。

 6キロの歩行モードもシニアカーや電動車椅子の最高速度と合わせているので運転免許不要であることにも整合性がある。車道走行時でも免許不要な点には正直若干の不安と懸念があるが、車道脇を疾走する自転車は20キロ以上であることも多いのだから、交通ルールの啓蒙で対処可能だろう(ちなみにLUUPでは会員登録時に交通ルールのテストが必須だった)。もちろん、インバウンドへのサービス展開も考えられる。

 ここまで書いただけでは、今回は人口密集地での電動キックボードの解禁の話だと思われてしまいそうだが、今回の法改正はむしろ地方の交通体系を変化させる可能性があることにポイントを置くべきだ。例えば通勤通学において自宅から数キロ離れた駅やバス停までの移動手段が自家用車しかないケースでは、キックボードであればそのまま電車に持ち込むこともできるし、急な雨でも片道は送迎車に積み込むことも可能だ。自転車や原付では難しかった、その日の家族のタイミングに合わせて送迎パターンが変えられるメリットは大きい。

 また、特定原付はキックボードだけを指すのではなく、座席のあるバイクタイプ、車椅子タイプなどさまざまな形態を想定している。コロナ後、タクシーも含めた地方交通の寸断が問題視され始めたいま、地域コミュニティー内の移動や公共交通の前後の2次移動の必要性を考えると、地方の生活需要の方が若者の遊び道具よりはるかに巨大なマーケットがあるはずだ。

 私もキックボードを自家用車に積み込むことで、例えば車を離れた駐車場に止めてイベント会場に向かい、会場内は歩行者モードで移動するなど、これまで不可能だったシームレスな移動ができるようになった。今後、私には思いもよらない新たな活用方法も生まれてくることだろうから、安全面も含めて社会の変化に注視したい。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

関連キーワード

キーワード#永山久徳#新着記事